北海道大学(北大)は10月4日、北大、国立天文台、総合研究大学院大学を中心とする研究チームが、ミクロンサイズのダストから、キロメートルサイズの微惑星に至るまでの間に存在する、恒星への落下・小天体同士の衝突による破壊・自己重力の微小さから来る小天体同士の衝突後の跳ね返りという「3問題」を部分的ながら解決できる新しい惑星進化理論を提唱したことを発表した。

成果は、北大 低温科学研究所の田中秀和准教授らの研究チームによるもの。研究の詳細な内容は2本の論文として発表されており、それぞれ現地時間5月28日と8月14日に、「Astronomy and Astrophysics」誌に掲載された。

惑星形成の標準理論では、若い恒星の周囲に存在する原始惑星系円盤の中で、はじめはミクロンサイズよりも小さい塵(岩石)や氷でできた固体微粒子(ダスト)が互いに衝突・付着を繰り返して徐々に大きくなり、最終的に惑星にまで成長すると考えられている。

しかし、この理論には未解決の問題点があった。まず1つ目は、成長途中のメートルサイズの段階で、この小天体が原始惑星系円盤の中心にいる恒星に落ち込んでしまうという「落下問題」。2つ目は、小天体同士が高速度で衝突した際にくっつくのではなく破壊してしまう「破壊問題」。そして3つ目が、キロメートル程度の小天体である「微惑星」よりも小さいサイズでは、自己重力が非常に弱いために小天体同士が衝突しても付着しない「跳ね返り問題」だ。これらの問題の解決が惑星形成理論における最重要課題となっているのである。

一方、自己重力の弱い小天体は、その成長過程においてすき間の多い構造を作ることがわかっていた。このすき間だらけ構造体は「アグリゲイト」と呼ばれる。ミクロンサイズの粒子からなるアグリゲイトは、非常に付着しやすいことが室内実験などにより示されており、合体成長には非常に適した構造であることが確かめられた。

しかし最近の研究の結果で予想外だったのが、すき間の多い構造は、アグリゲイト同士の高速衝突によって容易につぶれるというものだ。これがその逆の結果が出ており、衝突してもすき間はつぶれず、密な天体である微惑星を形成することはそう簡単ではないことが明らかになってきたのである。すなわち、惑星や小惑星のような密な天体になるためには、衝突以外の圧縮過程が必要であることがわかってきたというわけだ。

今回の研究では、ミクロンメートルサイズの粒子から微惑星までの小天体の成長過程において、ガスから受ける動圧と自己重力によって圧縮される効果を取り入れ、小天体の内部密度進化が調べられた。アグリゲイト構造を持つ小天体の圧縮強度を調べる数値計算では、アグリゲイトを構成する各粒子の運動を追うことが必要だが、微惑星のような巨大なアグリゲイト全体の数値計算は非常に困難である。

そこで今回の研究では巨大アグリゲイトの一部を取り出し、それを周期的に並べることによって全体の圧縮を再現するという手法を用いることで、この困難が克服された(画像1・動画)。数値計算で得られた圧縮強度を用いて、ガスから受ける動圧と自己重力による小天体の内部密度進化を解明したことで、謎の多かった微惑星の起源を正確に説明することに成功したのである。

画像1。原始感星系円盤における「感星の種」の想像図

アグリゲイト構造を持つ小天体が圧縮する数値計算の動画

今回の研究が明らかにした小天体内部密度進化によると、小天体の内部密度は、センチメートルサイズで10-5g/cm3という低い値にまで低下した後に、ガスからの動圧によって10-3g/cm3程度に圧縮され、100m以上では自己重力により一気に圧縮されるという進化をたどる(画像2)。この結果は、惑星形成の現場においては超低密度構造を持つ小天体が多く存在していることを示唆しているという。

画像2。合体成長するアグリゲイトの密度進化

このように、超低密度小天体=アグリゲイトを経由するという今回の研究の微惑星形成モデルは、小天体が主に氷で作られている場合、従来指摘されていた微惑星形成における3つの問題をすべて克服できることも明らかにした。氷粒子でできたアグリゲイト構造を持つ小天体は、付着しやすく成長も早いため、落下、破壊、跳ね返りなどの問題が解決されるというわけだ。一方、地球などの材料となる岩石でできた微惑星の場合には、付着力が十分でないためその形成には依然問題があり、今後の課題だという。

今回の微惑星形成モデルの観測的な実証が次の課題だとする。成長途中の低密度粒子は、惑星形成の現場を電波望遠鏡で観測することで見ることが可能だ。従来、このような観測で見える粒子はすべて中身の詰まった粒子だと考えられて観測が解釈されてきた。ところが今回の理論は、今まで見えていた電波望遠鏡の信号は、中身の詰まった粒子ではなく、すき間だらけのアグリゲイトだったことを示唆しているという。研究チームは今後、アグリゲイト粒子の光学的性質を明らかにすることにより、円盤の中に存在するすき間だらけのアグリゲイトの実証を目指したいとしている。