国立天文台は6月7日、チリのアタカマ砂漠にあるアルマ(ALMA)望遠鏡(アタカマ大型ミリ波サブミリ波干渉計:Atacama Large Millimeter/submillimeter Array)を用いた観測で、若い星の周囲で星間微粒子(星間塵)が寄せ集められて大きく成長していく場所を発見したと発表した。

成果は、オランダ・ライデン大学 大学院生のニンケ・ファン・デル・マレル氏らを中心とする国際共同研究チームによるもの。研究の詳細な内容は、6月7日付けで米科学誌「Science」に掲載された。

現在進行形で系外惑星が次々と発見され続けており、太陽以外の恒星の周囲にも惑星が回っていること、すでに良く知られている。しかし惑星形成の理論は提唱されてはいるものの、どのようにできるのかは完全には明らかになっておらず、惑星や彗星、小惑星といった天体の形成には今も多くの謎が残っている状況だ。

コンピュータシミュレーションによれば、ケイ素や炭素、鉄などを含む直径1μmほどの星間微粒子は互いに衝突することで合体し、成長していくと予想されている。しかしある程度大きくなった粒子が高速でぶつかり合うと、合体するどころか互いを破壊してしまい、粒子の成長はふりだしに戻ってしまうという問題があった。

また衝突で壊れない場合でも、大きくなった粒子は原始惑星系円盤に多く含まれるガスとの摩擦によってエネルギーを失い、より大きく成長することなく中心の星に落ちて行ってしまうと考えられており、それも大きな疑問となっている。

そこで考えられているのが、破壊や軌道変化を逃れることのできる「安全地帯」だ。その安全地帯は「ダストトラップ」と呼ばれるが、実際のところ、これまではそのような場所は発見されていなかった。

研究チームは今回、アルマ望遠鏡を用いて恒星「Oph-IRS48」の周囲にある原始惑星系円盤を観測し、その周囲をドーナツ状のガスの環が取り囲んでいることを解明(画像1・2)。ガスの環の中心部が抜けているのは、中心の星の周りに伴星か惑星が回っているためだと考えられるという。

また欧州南天天文台の可視光・赤外線望遠鏡「VLT」を用いた過去の観測から、Oph-IRS48の周囲には小さなサイズの星間微粒子が同様に環を形成していることはわかっていた。しかしアルマ望遠鏡の観測によれば、それより大きな数mmサイズの星間微粒子の分布は、これまでに知られていたものとはまったく異なっていたのである。

画像1は、アルマ望遠鏡と欧州南天天文台の可視光・赤外線望遠鏡VLTによるOph-IRS48の観測画像だ。緑色に着色された部分が、アルマ望遠鏡で発見された数mmサイズの微粒子が集中する「ダストトラップ」。オレンジ色の部分は、VLTが赤外線でとらえたマイクロメートルサイズの微粒子が作る星周円盤だ。

今回の観測で浮かび上がったカシューナッツのような形をした微粒子の集まりの中で、微粒子は衝突と合体を繰り返して大きくなっていくと考えられるという。理論的に予想されていた「ダストトラップ」が、遂に発見されたというわけだ。

画像1。アルマ望遠鏡と欧州南天天文台の可視光・赤外線望遠鏡VLTによるOph-IRS48の観測画像。(c) ALMA(ESO/NAOJ/NRAO)/Nienke van der Marel

画像2。Oph-IRS48周囲のダストトラップの様子(想像図)。(c) ESO/L. Calçada

ファン・デル・マレル氏は、「私たちが発見したものは、彗星のゆりかごといえるものです。ここは、ミリメートルサイズの微粒子が彗星のサイズにまで成長するのに適した環境を持っています。今回「ダストトラップ」が見つかった場所は中心星から遠いので、ここで地球のような惑星ができるとは考えにくいのですが、将来的には中心星により近いところをアルマ望遠鏡で観測することで、同じような仕組みで今度は惑星が作られる可能性のある場所(惑星のゆりかご)を見つけることができると期待しています」と説明している。

ダストトラップは、比較的大きな星間微粒子が圧力の高い場所に移動してくることで作られるという。コンピュータシミュレーションでは、このような圧力の高い場所というのはガスでできた環の端の辺りのガスの動きによって作られることが示されている。これは、今回ダストトラップがガスの環の端に位置していることと符合する形だ。

今回の観測は、アルマ望遠鏡の初期科学観測期間に行われたものだった。研究チームは波長0.4~0.5mmの電波を観測できる「バンド9受信機」を用いて、この期間中では最も高い解像度での観測を実現した。アルマ望遠鏡は、異なる波長帯にわけて電波を受信する仕組みで、これはアルマ望遠鏡が観測することのできる電波の内、2番目に波長が短い領域だ。波長が短いほど電波画像の解像度は高くなるため、バンド9受信機を用いた観測では高い解像度が得られるのである。

ファン・デル・マレル氏は今回の発見に対し、「最初にこの微粒子の分布を見たときは、本当に驚きました。私たちは、これまでに観測されていた通りの環が見えるだろうと思っていましたが、アルマ望遠鏡で見えたものは環ではなく、カシューナッツのような形だったのです。この観測結果には最初は目を疑いましたが、アルマ望遠鏡の高い感度と解像度のおかげで微粒子の分布が非常に明瞭に描き出されていたので、疑う余地はありませんでした。そして、私たちが重要な発見を成し遂げたのだということを悟りました」と語っている。