北海道大学(北大)は9月12日、果物から新規に単離した微生物「北大菌(学名:Gluconacetobacter intermedius NEDO-01株)」が、「廃グリセリン」や糖質などを原料として、高い効率で「ナノセルロース」の1種である「バクテリアセルロース」を合成することを発見し、さらに培養方法を改良することで、非常に均一な水分散液として調製し、新素材ナノファイバー「発酵ナノセルロース(ナノフィブリル化バクテリアセルロース(NFBC))」(画像1)の合成に成功したと発表した。
また、北大と日本甜菜製糖は、発酵ナノセルロースの生産技術および知的財産をベースとして、2013年4月より発酵ナノセルロースの大量生産に関する共同研究をスタートさせたことも併せて発表している。成果は、北大大学院 工学研究院の田島健次准教授らの研究チームによるものだ。
画像1。発酵ナノセルロース |
「セルロース」とは、植物によって合成されるグルコース(ブドウ糖)が「β1,4結合」でつながった高分子で、紙製品、繊維製品、樹脂製品、食品などとして広く利用されている身近な物質だ。通常のセルロース繊維の太さはミクロンオーダーだが、その1000分の1程度、つまり、ナノオーダーの超極細のものをナノセルロースという。ナノセルロースは環境に優しいなど、これまでにない優れた機能を有する新規素材として注目されており、さまざまな研究開発が多くの機関で行われている。
ナノセルロースは主に植物由来のセルロースを原料として、機械的または化学的処理によって、ナノ単位にまで細くすることによって作り出すのが一般的な方式だ。ただし、「酢酸菌」(エチルアルコールを酸化して酢酸を生成するグラム陰性の偏性好気性桿菌の一群)などのある種の微生物は、直接ナノセルロースを合成することが知られており、それは特にバクテリアセルロースと呼ばれている。
バクテリアセルロースは「静置培養法」によって合成するのが一般的な方法で、画像1のように水を多く含んだゲル状物質(ナタデココ)として得られる。研究チームは新しいバクテリアセルロース合成微生物として北大菌を取得し、さらに北大菌の培養方法を改良することによって、NFBCの合成に成功したというわけだ。北大菌は、果物の表面に付着しているものの中から単離・取得し、さまざまな試験結果を基にして同定が行われた。なお、発酵ナノセルロースにおける大量生産方法の概略は画像2の通りだ。
さらに北大菌による、廃グリセリンを原料に用いた三角フラスコによる培養も行われ、その結果、既存の微生物よりもセルロース合成能が高いことが判明。そこで、次に北大菌を用い大型培養装置による通気撹拌培養が行われたところ、5g/L以上の収量で発酵ナノセルロースの生産に成功したのである。
電子顕微鏡を用いて得られた生成物の形態観察を行ったところ、直径約20nmのフィブリル化ナノファイバーが均一に分散していた(画像3)。生成物には沈殿や塊状物質は観察されず、セルロースナノファイバーからなる均一な分散液であることが確認された。
現在、さらに製造コスト削減に向け、工業レベルでの製造工程の検討を進めており、今後は、発酵ナノセルロースを試験製造し、用途開発および市場調査を進める計画としている(画像4)。