東京インスツルメンツは9月2日、カメラのように一瞬で画像が取得できる「2次元多共焦点ラマン顕微鏡」を実用化したと発表した。
同成果は、同社ならびに、学習院大学の岩田 耕一 教授、早稲田大学の濵口宏夫 教授らによるもの。
ラマン分光法は、古くから物質や分子の振動スペクトルを観測する手段として使われ、主に学術的な用途で分子構造、化学結合状態の評価に使われてきたが、近年、光学顕微鏡技術と融合することで、数百nmクラスの局所の分光が可能となったほか、データを画像化して直感的に把握できるようにするイメージング技術との組み合わせなどにより、工業製品の開発や検査(異物の検出など)や、バイオテクノロジー、医療、創薬開発などといった分野でも使われるようになってきた。
しかし、ラマン顕微鏡は微弱なラマン散乱光を検出する必要があるため、測定時間の長さが課題となっている。現在、最も普及している一般的な共焦点ラマン顕微鏡の場合、試料またはレーザーを走査してラマン画像を描く方式を採用しているため、測定条件によっては測定時間が10時間以上にも及ぶ場合もあり、そうした課題解決のため、最近では、ライン状(1次元)のレーザービームを走査することで高速化を図ったラマン顕微鏡も登場してきているものの、2次元イメージを得るためには試料またはレーザーの走査が必要となるため、カメラのように一瞬で2次元ラマン画像を得ることはできなかった。
![]() |
各種共焦点ラマン顕微鏡の比較。2次元多共焦点ラマン顕微鏡は、1回の露光で441点のラマン強度を得られるため、一瞬でラマン画像を描画することができる。従来型の顕微鏡は、1回の露光で1つの集光点のみ、ライン走査型では1ラインのラマン強度しか得られないため、ラマン画像を取得するためには、レーザー光を試料上に走査させる必要があった |
そこで研究グループは、濵口教授らが開発した2次元多共焦点ラマン顕微鏡の試作機と関連特許を基に、高性能化と実用化開発を行ったという。そうして開発されたラマン顕微鏡は、レーザー光を21×21点、合計441点の格子点状(2次元)に分割して試料に集光照射し、各点からのラマン散乱光を同時に測定することで、試料やレーザー光を走査することなく、一瞬でラマン画像を得ることが可能であり、逐一変化する化学反応や、レーザー光で損傷しやすい細胞の観察を高速に行うことが可能となった。
また、今回の研究では、分光器に入射する光が、必ず点、または線状でなければスペクトルを観測できないことから、2次元多共焦点ラマン顕微鏡では、2次元に配列した21x21点のラマン散乱光を1次元へ変換するために、超高密度・高精度次元変換バンドル光ファイバーを新たに開発したという。
バンドルファイバーは、入射側に21x21本、分光器に接続される出射側に縦2列(220+221本)のファイバーが配列されており、各測定点のラマン散乱光は入射側から対応するファイバーに入射。出射側を縦2列とすることで、CCD検出素子の受光面には、左右にそれぞれ221本と220本のスペクトルが投影され、合計441本のスペクトルの同時観測を可能としたという。
また、今回の研究では、新たに低収差・高効率のイメージング分光器も開発。これにより、スペクトル同士の情報が混じり合うこと(クロストーク)を防ぎ、高いコントラストのスペクトル像が得ることを可能とした。
これらを活用することで、21x21測定点からの散乱光を空間的に分離し、さらにスペクトル間のクロストークを起こさずに観測することができるようになり、正確なスペクトル観察と高精度のラマン画像が可能となったという。ちなみに、今回用いられた次元変換バンドル光ファイバーは、外径65μmの細径光ファイバーが70μm間隔で2次元的に高精度に並ぶものとなっているという。
また、2次元多共焦点ラマン顕微鏡の共焦点光学系を活かすことで、透明試料内部を立体的に観察することも可能なほか、ラマン散乱光検出の妨げとなる蛍光の影響を抑制する効果も得られるという利点もあるとのことで、実際に濵口教授のグループが、生きた細胞の観測を行い、その有用性を報告しているという。
なお同装置は、東京インスツルメンツが「多共焦点ラマン顕微鏡 Phalanx-R」として、研究開発機関向けに2013年9月より受注販売を開始する予定だとしている。