東北大学(東北大)は6月19日、マウスにおける自閉症様症状の指標とされる超音波発声(USV)コミュニケーションに着目した研究から、父親の高齢化が仔における自閉症様症状の発症率を増大させることを明らかにしたと発表した。
同成果は同大大学院医学系研究科の大隅典子 教授らによるもの。詳細は6月20-23日の期間で国立京都国際会館にて開催される「Neuro2013」において22日に発表される予定。
自閉症は、社会性の異常、コミュニケーションの異常、興味の限定・常同行動を3大徴候とした感覚統合の異常や軽微な運動異常を伴う広汎性発達障害として知られており、近年、先進国における頻度が上昇している。
この要因としては、診断基準の変化や社会の認知度が上がったことに加え、両親の高齢化、中でも父親の高齢化や体外受精(IVF)などが発症と関連することがこれまでの疫学的調査から示唆されるようになってきた。
また、一般的に自閉症の発症には遺伝的要因が強く影響することが知られており、近年の大規模ゲノム解析などにより、多数の自閉症発症に関わる遺伝子・遺伝子座がリストアップされてきた。脳の発生発達に重要である転写制御因子Pax6もその1つで、今回、研究グループは、Pax6と自閉症のマウスモデルの行動異常の指標として近年、繁用されるようになった人間の言語コミュニケーションに相当する「超音波発声(ultrasonic vocalization:USV)」を指標とし、母マウスの条件を一定にして、父マウスの遺伝的背景と、加齢やIVFの影響について検証を行った。
具体的には、USVの中でも生後1週間程度の間認められる母子分離によるものは、各種自閉症モデルマウスにおいてその低下が報告されていることから、父親の加齢の影響を調べるために、野生型の若齢(3カ月齢:3M)もしくは高齢(>12M)の雄マウスを若齢の雌マウスと自然交配させ、生まれた仔マウス(生後6日目)のUSVを5分間測定した。その結果、野生型高齢父マウス由来の野生型仔において、USV数は平均値において半分以下に激減していることが確認されたという。
自然交配野生型マウスにおける父マウス加齢の影響。若齢(3M)野生型父マウスに由来する仔に比して、高齢(>12M)野生型父マウスに由来する仔は、遺伝子型はどちらも野生型であるが、後者において著しく母子分離による超音波発生(USV)数が減少する。P<0.01 |
また、自閉症様行動異常を呈するPax6変異マウスを用いて、遺伝的なリスクと加齢の相乗効果に対する検討として、若齢から高齢のPax6変異父マウスを、野生型若齢雌マウスと自然交配させ、生後6日目に野生型もしくはPax6変異仔マウスのUSVを同じように測定したところ、若齢(3M)父マウスに由来するPax6変異仔マウスのUSV数は野生型仔マウスのものと有意差が無かったが、若干加齢した(6-8M)Pax6変異父マウスに由来するPax6変異仔マウスのUSVは野生型仔マウスに比して半分程度に減少していること、ならびに高齢(>12M)Pax6変異父マウスに由来する仔では、野生型でもUSVが減少傾向にあるために、Pax6変異仔マウスのUSVと有意差が無いことが判明した。
さらに、若齢(3M)もしくは高齢(18M)Pax6変異雄マウスから精子を得て、若齢野生型雌マウスから得た卵子と体外受精させ、胚を偽妊娠させた野生型雌マウスの子宮に着床させ産仔を得て、同様に生後6日目のUSVを測定することで、Pax6変異マウスによる遺伝的なリスクとIVFの相乗効果について検討を行ったところ、若齢(3M)Pax6変異父マウスに由来するPax6変異仔マウスのUSVは野生型仔に比して半分程度に減少していたものの、高齢(18M)Pax6変異父マウスに由来する仔は、野生型でもUSVが減少しており、Pax6変異仔マウスのUSVと有意差が無いことが確認されたとする。
Pax6変異と体外受精(IVF)の関係。Pax6変異(Sey/+)父マウス精子と、野生型若齢雌マウス卵子のIVFにより得られた仔において、若齢(3M)父マウス由来Sey/+仔マウスのUSVは野生型仔マウスに比して50%程度に減少していたのに対し、高齢(>12M)父マウス由来の仔マウスでは、Sey/+仔マウスのUSVは野生型仔マウスと有意差が無かった |
これらの結果は、母体の影響や社会的な影響が限りなく少ない条件下においては、父マウスが加齢することにより仔マウスのUSVが減少することを示すほか、自閉症発症のリスクがあるPax6変異マウスを父とする仔マウスの場合では、加齢やIVFの影響がより若齢の父マウスの場合にも生じることを示すものであり、研究グループでは、これまでに多数行われているモデルマウスを用いた実験において、加齢やIVFの影響を配慮した実験が為されるべきであるということを警鐘するものだとしている。
また、今回の結果を人間の場合に直接当てはめる事はできないものの、近年の晩婚化や生殖補助医療の発展により、母親だけでなく父親の加齢も、子どもの自閉症発症に影響する可能性があること、また遺伝的なリスクのある場合には、より加齢やIVFによる影響が出やすい可能性があることを示唆するものであり、今後、父マウスの加齢やIVFがどのようなエピゲノム変異を誘発し、仔マウスの遺伝子発現などに影響を与えているかを明らかにしていくことで、自閉症発症の生物学的メカニズム解明につながることが期待されるとコメントしている。