世界各国で展開されている、ブロック玩具「LEGO(レゴ)」のテーマパーク「レゴランド・ディスカバリー・センター」。同施設には専属の"レゴ職人"である「マスター・ビルダー」が在籍しているのだが、その人数は各施設ごとに1名。この職に就いているのは世界中でたった10名という極めて狭き門だ。

マスター・ビルダーの大澤よしひろ氏

日本国内にある同施設は、東京都・お台場にある「レゴランド・ディスカバリー・センター東京」のみ。そのため、この施設に在籍している大澤よしひろ氏が、日本唯一のマスター・ビルダーだ。今回は、人気イベント「大人のレゴ教室」でも講師を務める「レゴ専門職」の同氏に、マスター・ビルダーを志したきっかけや日々の仕事、他のレゴビルダーとの役割の違いなどについて語ってもらった。

――まず最初にお聞きしたいのですが、大澤さんがはじめてレゴに触れたのは何歳のころですか?

幼稚園のころですね。自宅にも、また幼稚園にもレゴはあったので、友達と一緒に遊んでいました。その後、小・中・高・大と進学していき、その間もずっとレゴを触り続けていました。大学は、宝塚大学(在籍当時は宝塚造形芸術大学)でグラフィックデザインを専攻し、卒業制作としてレゴで大きなタワーキャッスルを作りました。

――これだけ長い間レゴでの制作を続けられた理由は?

もっと歳を重ねれば、さらにすごい物が作れるようになるのではないか、と思って続けていました。それに、ブロックの色が足りなかったり、使いたいパーツが無かったりして作品が作れないことがあるんですが、そんな理由でやめるのはもったいないと思っていましたね。

――レゴを職業にしようと決めたのはいつだったのでしょうか。

2012年1月に、「レゴランド・ディスカバリー・センター東京」のマスター・ビルダーを選出するコンテストの告知があったことがきっかけです。このコンテストはレゴランド・ディスカバリー・センターのオープンにあたって開催され、優勝者がマスター・ビルダーに選ばれるというものです。

大澤さんが予選で制作した蝶々

――マスター・ビルダーになるためのコンテストはどんな内容だったのでしょうか?

まず予選ではふたつの課題が与えられます。ひとつはテーマが「動物」で、制限時間が15分以内。ふたつ目が「建物」で、こちらの制限時間は45分です。どちらの課題も、会場に用意されているブロックを使って制作しました。そのほかにも、面接を受けましたね。

――予選の作品制作の難易度はどの程度のものでしたか?

難しかったです。まず、用意されているブロックに使いたいパーツが無いんです。というか、使いづらいパーツがあえて置いてありました。細長い物がとにかく多くて、基本的なブロックはほとんど無し。また、1色あたりひとつないしはふたつの形しか置いていなかったので……。

――コンテストで優勝されてから、すぐにマスター・ビルダーとして働きはじめたのでしょうか?

はい。2012年3月の終わり頃にコンテストがあって、5月に入社しました。

――普段はどんなお仕事をされているのですか?

この施設内で開催しているワークショップで、子どもたちと一緒に作るモデルを考案・制作しています。ワークショップの運営にも携わっていますが、これは僕のほかにも数名のスタッフで取り組んでいます。

それ以外だと、イベントなどの際に作る大きな作品の制作を行います。企画は社内で話し合いをして決め、制作からは僕が単独で担当しています。これから公開される作品では、6月15日~7月12日にかけて公開される「レゴランド・ディスカバリー・センター東京」1周年記念の特大バースデーケーキを手がけました。

ワークショップが行われる部屋の一角には、大澤さんがレゴで制作した動物の像が飾られている。よほど大きな作品でない限り、すべて1人で作り上げるそうだ

――ひとつの作品を作るのにおよそ所用時間はどのくらいでしょうか?

作品が大きければ大きいほど時間はかかるのですが、小さい物だと1時間くらいですね。

――国内でレゴビルダーとして活躍されている方として、モデルビルダーの直江和由さんや、レゴ認定プロビルダーの三井淳平さんがいらっしゃいます。みなさん肩書きが異なるのですが、それぞれの"レゴビルダー"の違いはどこにあるのでしょうか。

最も大きな違いは所属です。僕は(レゴランド・ディスカバリー・センター東京の運営元の)マーリン・エンターテイメンツ・ジャパンの社員として、先ほどお話しした仕事を担当しています。

また、モデルビルダーの直江さんはレゴ社の社員です。三井さんはレゴ社に認定された一般の方で、同社から個人でレゴを用いた仕事をしてもいいと許可された方ですね。

――話は変わりますが、これまでワークショップや作品制作を手がけてこられた中で、印象に残っている企画などあれば教えてください。

2012年12月に、日刊スポーツで一面を飾った記事をレゴを用いたモザイクアートにした展示を行ったのですが、それが印象に残っています。この作品は、元データをパソコンに取り込んで「Photoshop」でモザイク化し、それを印刷し、それを参考にして制作しました。

「レゴアート展~2012年を彩ったスポーツ選手」のために大澤さんが制作した、日刊スポーツ1面を再現したモザイクアート

――立体作品を作る時も、設計図のようなものを作るのでしょうか?

設計図は作らず、写真を見ながら制作していきます。例えば、動物であれば、ライオンやシマウマの画像を見ながら作っていきます。

――設計図を作らないのですね。制作対象を感覚でとらえていらっしゃるのでしょうか?

そうですね、立体に関しては感覚で作っていると思います。

大澤さんがインタビューに持参していた、モレスキンとレゴの限定コラボレーションモデル。手帳までレゴ関連のモノを愛用している徹底ぶりだ

――ところで、日ごろ子供向けのワークショップを企画されているということですが、教育用のレゴブロック「マインドストーム」をワークショップで扱うご予定はありますか?

今のところ予定はないです。というのも、常設で行っているレゴ教室は、5~6歳の子供が20分程度の実施時間で作れるものをテーマとしているからです。マインドストームを使ったプログラムをこの時間内に教えるのは難しいので、特別イベントとして行うことはあったとしても、常設のワークショップで取り入れることはないかと思います。

――最後に、これまで大澤さんがマスター・ビルダーとして働いてきた中で、最もやりがいを感じた瞬間をお教えいただけますか。

いい作品ができた、と感じた時ですね。また、ワークショップで作っている作品は自分で考案した物なので、お客さんに喜んで貰えたときはやはり嬉しいです。

――ありがとうございました。