国立天文台は5月29日、国立天文台天文シミュレーションプロジェクトが天文学専用の新しいスーパーコンピュータ(スパコン)システム「アテルイ」を水沢VLBI観測所に設置・稼働を開始したことを発表した。

同システムは8台のCrayのスパコン「Cray XC30」で構成されており、1512ノード(24192コア)の構成で理論演算性能は導入時で502TFlopsで、2014年9月までに更新を行い1PFlopsを超える予定だとのことで、天文学専用のスパコンとしては世界最速だという。

またXC30は、Xeonプロセッサを搭載するほか、Intel Xeon PhiコプロセッサやNVIDIAのTesla GPUアクセラレータなどの搭載も可能なスパコンで、Ariesインターコネクト、アプリケーションを局所的な制約から解放するDragonflyネットワークトポロジ、トラバースエアフローを利用して総所有コストを節減する冷却システム、ISV 製の各種アプリケーションにも対応するスケーラブルかつ高性能の次世代Cray Linux Environment、HPCに最適化されたCrayのプログラミング環境を備えている。

ちなみにアテルイの名称の由来は、約1200年前に水沢付近で暮らしていた蝦夷の長である阿弖流為とのことで、蝦夷をまとめ、朝廷の軍事遠征に勇敢に立ち向かった英雄になぞらえ、その計算力を活かして、果敢に宇宙の謎に挑んで欲しいという思いから付けられたという。

なおアテルイは、高速ネットワーク回線を介して国立天文台三鷹キャンパスや他大学・他研究機関と接続されており、今後の5年間で、多数の大規模・高精度なシミュレーションが実行される予定で、「理論天文学の望遠鏡」としての活躍が期待されると国立天文台では説明しており、これまでより細かい構造に迫ることができるシミュレーションや天体の進化をより長く追うことができるシミュレーションが可能となるほか、これまでは計算機性能の制約から取り入れることが難しかった物理プロセスを取り入れた、まったく新たなシミュレーションが行なわれることも考えられるという。

水沢VLBI観測所に設置されたスパコンシステム「アテルイ」 (C)国立天文台天文シミュレーションプロジェクト