東京大学は4月22日、機能性RNA「psm-mec(phenol soluble modulin mec)」が黄色ブドウ球菌の病原性発現に必須な遺伝子の翻訳を抑制することにより、病原性を抑制していることを明らかにし、また「メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)」の中に、psm-mecが変異したために高病原性化している株が存在することを発見したと発表した。

成果は、東大大学院 薬学系研究科 薬学専攻の垣内力准教授らの研究チームによるもの。研究の詳細な内容は、4月4日付けでオープンアクセスジャーナル「PLoS pathogens」に掲載された。

黄色ブドウ球菌は、食中毒などのさまざまな感染症の原因となる細菌だ。その中でも1960年以降に出現したMRSAは、その名の通りにメチシリンを含むさまざまな抗生物質に耐性を示すために治療が難しく、問題になっている。ただしMRSAは感染力は低めで、病院内で免疫力の低下した患者に感染するものの、健常人にはほとんど病気を引き起こさなかった(病院分離型MRSA)。

ところが最近になって、欧米を中心に新型の「市中分離型MRSA」が出現し、健常人にも感染するという事態が起きている。市中分離型MRSAは高い病原性を持ち、急性疾患を引き起こし、最悪の場合は感染者を死に至らしめる場合もある。市中分離型MRSAの分泌する細胞外毒素の量は病院分離型MRSAに比べて多いことが確認されてはいるものの、その原因はこれまで明らかになっていなかったのである。

そこで垣内准教授らは、市中分離型MRSAには存在しないが、病院分離型MRSAには存在するpsm-mec遺伝子に着目。psm-mecは、有機化合物の「フェノール」に溶解する疎水性の「ポリペプチド」(多数のアミノ酸がペプチド結合した化合物)をコードする遺伝子として同定。この遺伝子から転写されたRNAが、黄色ブドウ球菌の細胞外毒素の産生に必須な役割を果たす転写因子の翻訳を抑制することを見出した。

また、人為的にpsm-mec遺伝子を失わせた病院分離型MRSAはマウスに対して高病原性を示すこと、人為的にpsm-mec遺伝子を導入した市中分離型MRSAはマウスに対する病原性を減弱することも判明。すなわち、病院分離型MRSAにおいてはpsm-mec RNAが病原性発現を抑制している一方、市中分離型MRSAにおいてはpsm-mec RNAが発現しないために、病原性抑制機構が破綻し病原性発現が亢進していると推測されたのである。

さらに垣内准教授らは、日本の関東地域の病院から325株の病院分離型MRSAを収集し、その約30%がpsm-mec遺伝子に変異を有し、psm-mec RNAの発現を失っていること、ならびにこれらのpsm-mec遺伝子変異株では細胞外毒素の発現量が増加していることも見出した。つまり日本の病院分離型MRSAも市中分離型MRSA並みに病原性が高くなってきているということが示されたこととなった。

今回、市中分離型MRSAの高病原性の原因がpsm-mec RNAの不在であること、病院分離型MRSAの中にもpsm-mec RNAの発現低下により高病原性化している株が存在することが示唆されたことを受け、研究チームでは、psm-mec遺伝子変異の検出は、高病原性型MRSAの迅速な検出と治療指針の確立に役立つことが期待されるとコメントしている。