安全・使いやすさの向上に向け常に改良が続くUNI-CUB
イベント後、未来館の科学コミュニケーターでUNI-CUBに最も乗っているひとりである坂巻たみさんや、UNI-CUBの開発スタッフのひとりである本田技術研究所 2輪R&Dセンター研究員の長谷川誠さんに話を聞くことができた。
UNI-CUBは現在、かなりのピッチで実は改良が進んでいるそうで、外見こそ2012年6月の発表から変わっていないものの、ソフトウェア的にはどんどん改良されており、もはや別物というぐらい、操縦しやすくなっているそうである。
坂巻さんによれば実証実験がスタートした頃はまだUNI-CUBが転倒してしまうことが珍しくなかったそうだが、今はかなり無理な体勢にしないと逆に転倒しないという。確かに見ていて、その安定感たるや、本当に1輪なのか疑わしくなるほどで、小さな補助輪がいくつかあって、3輪車とか4輪車になって力学的に安定しているのではないかと感じてしまうほどである。
ちなみに、U3-Xから比較しての場合だが、この倒れない制御=復元力は、アルゴリズムの改善、グリップ力の向上、モーター出力の見直し、車輪の大径化によって3倍にまでアップしているという。
安定性に加えて操作に関してもかなり改良が施されているようで、相当扱いやすくなっているようだ。例えば、以前は難しかった真横への平行移動や、旋回も多少の練習ですぐにコツをつかめるし、乗り慣れている未来館スタッフはもはや足をまったく着かなくてもどこにでも移動できるようになっているほどだという。坂巻さんによれば、「これだけ操作しやすく、なおかつ転倒しないようになってきたので、今回、ツアーイベントを実施することができたんです」ということである。
しかし、こうして誰でも乗れるようになり、とても楽しそうに乗っているのを見ると、遊びに使いたくなってしまったりする。迷路でもいいしミニサーキットでもいいが、タイムアタックとかしてみると楽しいのではないだろうか。
そうした点について長谷川さんに話を聞いてみると、「もちろん遊びの場での利用もUNI-CUBの使い方の1つですが、やはりまずはきちんと業務で利用できることが重要ですね。日本の車やバイクはまず道具として利用される形で発展してきましたから、UNI-CUBもまずはそうしたいと考えています。UNI-CUBが役立って世の中に受け入れられるようになってきたら、遊びの場での使い方もあります、と提示するのはありだと個人的には思っています」という。
まずは業務用途で役に立つ、ということであれば、やはり今回のように歩いて回ると距離があって疲れてしまうような大型の展示施設や、ショッピングモールなどで利用するといったところだろう。正直、幕張メッセや東京ビッグサイトなどでの展示会の取材の際には、貸し出してもらいたいのだが、何とかならないだろうか。使用レポートをちゃんと提出させていただくということで、1つお願いしたい(笑)。
まぁ、それは冗談としても、ショッピングモールなどで使用する点について真面目に考えると、どういう仕組みにしたらよいのかは悩みどころである。子どもなどは特に目的もなく単に遊びたくて乗りたがるだろうから、時間無制限なんてのはもってのほかだろう。また、有料貸し出しにしないと厳しいかも知れない。有料の時間貸しとした場合、料金設定次第で「じゃあ別にいいや」となりそうだし、なかなか難しい(いくら以上の買い物をすれば1時間無料、とかいろいろと考えられるとは思うが)。
また、仮に量産されるようになって価格が下がってきたとしても、ひとつのショッピングモールや空港などはで、そう何台も購入できないはずだ(ショッピングカートほどの価格で購入できるのなら別だろうが)。どれだけの台数なら、無駄にパーソナルモビリティが待機するような状態でもなく、かつお客さんがあまり待たずに済むようになるのか、妥当な台数を見出したりするのはなかなか難しそうである(平日と休日では利用希望者の数も違うといったところもあるだろう)。
ただし、ショッピングモールや展示施設、空港などの、近年の歩いて移動するには時間のかかる巨大施設での利用というのは、ビジネスとしての可能性は間違いなくあるはずである。UNI-CUBなどのパーソナルモビリティに乗って買い物ができる、というのは少なくとも最初の内は宣伝文句にはなると思うので、客寄せ効果もあるだろう(それが普通の時代が来たら客寄せ効果はなくなってしまうとは思う)。
UNI-CUBを見ても技術的にはかなり完成してきているわけだが、法の整備の面も含めて、まだまだ解決すべき課題はあり、一般で当たり前のように利用できる時代はもう少しかかりそうである。
実際に最新版のUNI-CUBに試乗してみた
というわけで続いては、未来館番付記者を自負する(笑)筆者ならではの、ちょっと無理なお願いを聞いてもらって、特別にUNI-CUB最新版に乗らせてもらったので、そのレポートをしたい(画像18)。
やっぱり視点が低いので、セグウェイやWingletなどの立ち乗り型に比べると、初めて乗る時の怖さほとんどない。とはいっても、両手でつかむものがないため、その点では最初に少し不安に感じてしまうこともあるかも知れない。ただし、両手が空いているということは壁などに触れるわけで、ちょっと慣れてしまえば安心感を得やすい。
走り出すと、前進、減速は結構簡単だ。人間、前後の重心移動は身体を前に曲げたり上半身を起こしたりするだけで良いから、とても簡単である。ちなみに、後方に重心をかけるとブレーキがかかるというよりも、エンジンブレーキをかけたような感じになる。なので、この上半身を起こす度合い、そのタイミング次第で、動きのスムーズさが変わってくる。ここら辺のわずかな重心移動で動きが変わる感じは、タイムアタック的な遊びやスポーツができそうで、楽しそうな感じだ。
長谷川さんによれば、個人的には既存のモータースポーツに似た形ではなく、まったく違った遊び方があるのではないかとしている。また、長谷川さんはホンダのバイクの開発も担当してきているので、この座った状態で重心移動させて操る感覚は、バイクのようだったり、人が歩いていたりするような感覚もあるという。
よって、バイクの事故で下半身麻痺となってしまった人たちでも、上半身を動かして体重移動させられるのであれば、UNI-CUBは着座して乗れるので、かつてのバイクの感覚や、歩いていた時の感覚がよみがえってくるはずとしていた。
続いては旋回にトライ。前後ほど簡単ではなく、ちょっと難しかった。坂巻さんのアドバイスによれば、見た方に回っていくというので、回りたい方に目をやると、確かに回っていく(自転車でもバイクでも、見た方に進むから余計な方向は見るなというのを逆に利用する感じ)。最終的に、前進ほど確実な感覚は得られなかったのだが、何とか左右とも旋回は一応できるようにはなった(動画3)。
ただし、あまり時間もなかったので、左右への平行移動はトライせず。また前進して慣性力をつけた状態で90度方向転換して横平行移動に移り、ある程度来たら前進する、勝手に命名した「UNI-CUBドリフト(略してUNIドリ)」になると、もはやどういう体重移動でうまくできるのか、想像しかできないし、想像通りだとしても身体がその通り動くかどうか自信がない。
たぶんUNIドリは、主輪が普通に前進の回転をしているところに素早く90度ひねって、それまでの前進の慣性力を横平行移動に移しているのだろう。これは、旋回用車輪はあるが、基本1輪にも関わらず、前後進と左右への平行移動や旋回などを実現している「Honda Omni Traction System(全方位車輪機構、別名:HOT Drive System)」ならではの動きで(画像19)、主輪が前向きに回っているところから、一瞬にして主輪上に多数が設けられている横平行移動・旋回用の小さな車輪に慣性力を移し、なおかつ重心移動も同時に横平行移動に変えるという、なかなか難度の高い技のはずである。今回は挑戦できなかったので、また次の機会があればトライしてみたい。
画像19。これが1輪なのに真横への移動も可能にしているHonda Omni Traction Systemの仕組み。大きな車輪に小さな車輪が90度直角な向きでいくつもついていることで、横への移動を実現している。(c) 本田技研工業 |
というわけで、以上、「Miraikan×Honda -実証実験 60分でも p(^-^)q スマイル!- 未来館てんこもりツアー with UNI-CUB」+UNI-CUB最新版の試乗記をお届けした。この取材の最中に、広報の方に、現在も稼働しているパーソナルモビリティ一式を未来館に集めて、ぜひ特別展を開いていただけるようお願いしておいたので、その内、実現できることを勝手に(笑)期待したい。
また未来館では、おそらく今回のようなUNI-CUBを利用したツアーイベントが今後も行われるものと思われるので(2013年3月6日時点では発表されていない)、興味がある人は友の会に入っておくのも良いかも知れない。ちなみに実証実験そのものは今後も続けられていく方向で、坂巻さんら科学コミュニケーターの人たちが館内を乗って移動しているので、どれだけスムーズの動きをするかといったことは直接見ることができるし、話も聞かせてもらえるので、興味のある方はぜひ未来館を訪ねてみていただきたい。