横浜市立大学は、東京大学と群馬大学の協力を得て、脳のまれな病気である「SENDA(static encephalopathy of childhood with neurodegeneration in adulthood)」の原因遺伝子を同定し、この遺伝子が、細胞内でのオートファジー(細胞内の不要成分を分解する自食作用)に関わっており、細胞内のオートファジーの異常が脳内の細胞の異常を引き起こし、結果として知的障害を引き起こす可能性が示されたと発表した。

成果は、同大 学術院医学群 遺伝学の才津浩智 准教授、同・松本直通 教授、東大大学院 医学系研究科の西村多喜 助教、同・分子生物学分野の水島昇 教授、群馬大大学院 医学系研究科 小児科学の村松一洋 助教らによるもので、横浜市立大 先端医科学研究センターが推進している研究開発プロジェクトの成果の1つだ。研究の詳細な内容は、日本時間2月25日付けで英国科学誌「Nature Genetics」オンライン版に掲載された。

SENDAは「脳内鉄沈着神経変性症」の1つで、小児期早期からの非進行性の知的障害と、成人期に急速に進行する「錐体外路症状(ジストニアやパーキンソン様症状)」や認知症を呈する神経変性疾患。発症はまれで、家族歴も見られないため、従来の遺伝学的手法では原因遺伝子を解明することができていなかったという。

SENDAのMRI画像。画像1(左)は患者1のT2強調、画像2(右)はT1強調。淡蒼球に低吸収域(矢印)が認められ、鉄沈着が示唆される。また、線状の低信号領域を伴う黒質の高信号(矢頭)が認められる

今回、研究グループは、ゲノムのタンパク質を決める部分(エクソン)をすべて解析する方法である「全エクソーム解析」を2家系(患者1名ずつ)に応用することで、両患者に共通して「WDR45遺伝子」の「デノボ変異」を確認したという。また、3名の患者について変異解析を実施し、すべての患者でWDR45遺伝子変異を確認したとする。

このWDR45遺伝子は、オートファジーに必須の分子である酵母「Atg18」のヒト相同遺伝子である「WIPI4タンパク質」をコードしているが、研究グループの患者由来のリンパ芽球を用いた解析では、「WIPI4タンパク質」の発現が著しく減少していることを確認。これによりオートファジー活性の低下と「オートファゴソーム」の形成異常が認められることが判明した。

画像3。患者1とその家族由来のリンパ芽球を用いたウエスターンブロット上段は、オートファジーの誘導剤であるトーリンと、リソソーム阻害剤であるクロロキン処理(オートファジー依存的な分解が阻害される)による、LC-II(オートファゴソームのマーカー)の定量。患者1において、LC3-IIは非処理状態でも蓄積する傾向にあり、さらにクロロキン処理によるLC3-IIの蓄積が少ないことから、オートファジー活性が減少していることがわかった。また、中段の赤丸は、患者ではWIPI4の発現が著しく減少していることを示す(アスタリスクは非特異的なバンドを示す)ほか、下段では、内部標準コントロールのHsp90の発現量には違いが認められないことが示されている

画像4。患者1とその家族由来のリンパ芽球の免疫細胞染色によるオートファゴソームの観察。コントロール細胞ではLC3とAtg9A(オートファゴソーム形成初期に一過性に発現)は共局在しないが、患者ではLC3とAtg9Aの共局在が頻繁に観察され(黄色)、多くのオートファゴソームが未完成の状態にあると考えられたという

今回の結果を受けて研究グループでは、今後、オートファジー異常の観点から病態生理の理解が進むことで、同疾患の新しい治療法や効果的な進行抑制方法の開発につながることが期待されるほか、異なる神経変性疾患や知的障害の病態理解にもつながる可能性がでてきたと説明している。