生理学研究所(NIPS)は1月31日、ウズベキスタン科学アカデミー生物有機化学研究所、ウズベキスタン国立大学との国際共同研究により、ラット胸腺の免疫細胞である「胸腺リンパ球」からの抗酸化物質「グルタチオン」が、「VSORチャネル(ブイサーチャネル:容積感受性外向整流性アニオンチャネル)」を主たる通り道にして放出されることをつきとめたと発表した。

成果は、NIPSの岡田泰伸所長、ウズベキスタン国立大のR.Z.サビロブ教授らの国際共同研究グループによるもの。研究の詳細な内容は、1月30日付けで米オンライン科学誌「PLoS ONE」に掲載された。

グルタチオンは、アミノ酸3つからなる抗酸化物質で、体の中で活性酸素から細胞を守る働きをしている物質だ。グルタチオンは、細胞内で絶えず作られ、細胞外に放出されている。

またグルタチオンは自らのチオール基(SH基)を用いて、活性酸素種や過酸化物を還元して消去するという抗酸化作用を示したり、さまざまな毒物や薬物のシステイン残基のチオール基にS-S結合(グルタチオン抱合)することによって解毒作用を示し、これによって、細胞の傷害死やがん化や老化を防御する役割を果たす。

研究グループは、ラット胸腺の免疫細胞である胸腺リンパ球からグルタチオンが放出されるメカニズムに注目。細胞周囲の溶液を薄めて細胞を刺激(低浸透圧刺激)したところ、細胞が膨張し、グルタチオン放出が著しく増えることがつきとめられた。

通常は、1秒当たり8000分子(1細胞から)が放出されるが、細胞がおよそ2倍近くに膨張した時には放出量が6万1000分子にまで上昇することが判明したのである。

画像1。低浸透圧刺激によって、グルタチオン放出が亢進

低浸透圧刺激をうけた時のグルタチオン放出は、VSORチャネルを閉じる薬剤(フロレチンやDCPIB)を投与すると、半減することが判明。このことから、グルタチオンの放出の主たる通り道がVSORチャネルであると考えられたというわけだ。

一方で、グルタチオンを細胞内外で輸送する輸送体となるタンパク質の働きを止める薬剤(PAH)の投与ではあまり影響がなかった。また、VSORチャネルを実際に、グルタチオンが一価アニオン(陰イオン)として通って電流を発生することも確認されている。

なお、これまでは主として細胞膜上の輸送体と呼ばれるタンパク質が、細胞内外でグルタチオンを輸送していると考えられていた。今回、研究グループは、低浸透圧刺激をうけた時には、VSORチャネルがグルタチオンを放出させる主たる通り道となることを明らかにした。

画像2。グルタチオン放出は、VSORチャネルを閉じると著しく減少

画像3。VSORチャネルは、グルタチオンの主たる通り道

VSORチャネルの開閉を薬によってコントロールすることによって、細胞内でのみ生成されるグルタチオンの細胞外放出を制御し、細胞の傷害防止、老化防止、がん化抑止をする道が、今後の研究によって開かれる可能性があると、岡田所長らはコメント。

また脳においては、神経細胞よりも「アストロサイト」と呼ばれるグリア細胞の方がより多くのグルタチオンを含有しており、脳虚血や脳浮腫や脳過興奮毒性(グルタミン酸毒性)時においては、アストロサイトが細胞膨張を示し、グルタチオンを放出して、神経細胞に保護的に働く可能性がある。

これらの脳の病態時における神経細胞死を防御・救済する技術も、このVSORチャネルを制御することによって開かれる可能性があると、岡田所長らは併せてコメントしている。