九州大学(九大)は12月20日、2012年4月22日に米国カリフォルニアで目撃された約5秒間の火球発光を生じた隕石の試料の希ガス同位体分析を行った結果、同隕石がプレソーラー粒子を含む始原的な物質であること、ならびに隕石母天体表面で太陽風の照射を受けたこと、母天体脱出後、約5万年ほど漂った後に地球に落下してきたことなどを明らかにしたと発表した。

同成果は、同大大学院理学研究員の岡崎隆司 助教、同大4年の武智弘之氏、東京大学大学院理学系研究科の長尾敬介 教授らによるもので、隕石試料の研究を行った40人以上の研究者らの成果とともに、国際学術雑誌「Science」に掲載された。

2012年4月24日にSutter's Millと呼ばれるゴールドラッシュが起こった地域にて3個の隕石破片が発見された後、約2カ月間の調査によりさらに74の破片が発見され、合計77個(総質量943g)が回収された。これら回収された隕石は、約46億年前に形成された隕石の一種である「CM炭素質コンドライト」であることが調査により判明し、「Sutter's Mill隕石」と名付けられた。

同隕石は、ドップラー気象レーダーによる落下起動予測により、速やかに回収されたことから、地球上での汚染や風化の影響が少ない状態のまま世界各地の研究者に配布され、さまざまな分析が行われた。

研究チームは2012年6月に希ガス同位体分析を実施。希ガスは揮発性が高く、宇宙空間や小天体内部での加熱により固体物質から容易に失われることから、その存在度合が熱影響を評価するパラメータの1つとなる。また、他の微量元素に比べても固体物質中の濃度が低いため、放射性核種の崩壊による新たな同位体の付加に敏感で、さまざまな年代測定に応用されてきており、日本の小惑星探査機「はやぶさ」が持ち帰った試料の分析でもその有用性が証明されている。

今回の分析では、試料として送られてきた約10mgの2つの破片(SM43、同51)を、それぞれ3分割し、1つを「段階加熱分析(600/900/1400/1800℃で加熱しガスを抽出)」、もう1つを「全岩分析(1800℃で一気に過熱しガスを抽出)」、そして最後の1つをバックアップ用として保存する形で行われた。

具体的には、分割された直径0.5mm程度の試料(1.6~4.0mg)を厚さ10μmのアルミ箔製のカップ(直径1mm、長さ4mm)に入れ、それを直径1.5mmの球状におさめ、真空加熱炉のサンプルホルダに設置し、アルミに包んだ試料をサンプルホルダ中心の穴から炉のるつぼに落とし、試料を加熱、希ガスの抽出を行った。

(a)がアルミ箔のカップ、(b)が真空加熱炉にセットされた試料

希ガスはHe(ヘリウム)、Ne(ネオン)、Ar(アルゴン)、Kr(クリプトン)、Xe(キセノン)などがあるが、分析の結果、同隕石中のAr、Kr、Xeは隕石固有のガス(P1ガス)が大部分を占めていることが判明した。P1ガスは太陽系星雲のガスが炭素質物質に取り込まれた始原的なガスと考えられており、同隕石中の濃度もほかのCM炭素コンドライト中の濃度とよく一致していることが確認された。

ちなみに、SM43を600℃で元素分別した結果では、試料を分析前に真空中にて150℃の熱で一昼夜かねすして吸着ガスを除去している影響から、大気中の酸素や水と反応し、2次的に形成された物質に内包されたであろう地球大気の影響が見られたという。

希ガスの中でも重いAr、Kr、Xeの元素の存在度比。

また、Ne同位体組成から、太陽系形成以前に他の恒星や超新爆発よって形成された粒子「プレソーラー・グレイン」に含まれる希ガスや太陽風起源の希ガスが含まれていることが判明し、母天体表面での角礫岩化作用の差異に太陽風照射を経験したことが示唆されたという。

Ne同位体の組成。P3やHLで示されるガスは超新星爆発由来と考えられるナノサイズのダイヤモンド微粒子(プレソーラー・ダイヤモンド)に含まれる希ガスで、Ne-Eは主に赤色巨星由来のシリコンカーバイド粒子(プレソーラー・シリコンカーバイド)に含まれる希ガス

さらに、これらの太陽系内外由来の始原的希ガスのほかに、ごくわずかながら、高エネルギー宇宙船によって生成されたNe(GCR-Ne)も含まれていることが判明。その量を見積もったところ、GCR-21Ne濃度は1.0×10-10cm3 STP/gとなり、数mサイズの物体表面での21Ne生成率を2×10-9cm3 STP/g/百万年とすると、銀河宇宙線照射を浴びた期間(宇宙線照射年代)、つまり同隕石が母天体から放出され地球に落下するまでの期間はおよそ5万年ということが見積もられた。CM炭素質コンドライトの宇宙線照射年代分布は20万年と200万年にピークを持つが、同隕石はこれらに比べると明らかに短い照射年代であり、研究チームでは、おそらく同隕石の母天体の軌道がCM炭素質コンドライト特有の公転軌道に進化する前に隕石として放出されたことにより、他のCM炭素質コンドライトとは異なる短い照射年代を有するようになったものと考えられると説明している。

今回の多くの科学者たちによるさまざまな分析から、同隕石は2014年に打ち上げが予定されている日本の小惑星探査機「はやぶさ2」の目標天体である「1999JU3」と同類のCM炭素質コンドライトであることが判明した。また、酸化的なCM炭素質コンドライト隕石の母天体では生成されない特殊な鉱物も同隕石から発見されたが、これまで他のCM炭素質コンドライト隕石からはそうした鉱物の報告はされておらず、地球落下後すぐに回収され、適切な環境で保管されたことが、こうした特殊な鉱物が地球の酸素や水と反応して分解する前に発見に至ったものではないかと推測されるという。

こうした成果を受けて研究チームでは、将来の探査機によるリターンサンプルの取り扱いには十分すぎるほどの配慮により、地球大気の影響を排除する必要があるとしており、そうすることで、2020年に帰還予定のはやぶさ2が持ち帰るであろう試料の分析から、さまざまな物質が発見され、惑星科学の新たな知見を得ることが期待できるとコメントしており、2020年を見据え、さらなる分析技術の向上などを進めていく方針としている。