順天堂大学は12月18日、「腸上皮細胞」や肝細胞でのみで細胞死抑制遺伝子「c-FLIP」が欠損したマウスを樹立することに成功し、c-FLIPが腸管や肝臓の恒常性を維持するために必須の遺伝子であることを明らかにしたと発表した。
成果は、順天堂大大学院 免疫学講座の中野裕康准教授らの研究グループによるもの。研究の詳細な内容は、12月18日付けで「Science Signaling」に掲載された。
生体はさまざまなストレスに絶えず暴露されている。細胞死を誘引するようなストレスから細胞の生存を維持するために、細胞死をブロックするさまざまな遺伝子が存在し、それぞれ単独であるいは協調的に働き、生体の恒常性維持に関与していると考えられている。
これまでの研究から、発がんや炎症に関与することが示されている転写因子「NF-kB」が、腸や肝臓の細胞で欠損した場合には、細胞死が亢進し腸炎や肝がんが発症することが知られていた。しかし、NF-kBがどのようなシグナル分子を介して細胞死を抑制し、腸管や肝臓の恒常性維持に関与しているかは不明だったのである。
今回、中野准教授らはNF-kBにより発現の誘導されるc-FLIPに注目し、さまざまな組織で特異的にc-FLIPの欠損するマウスを作成して実験を行った。すると、c-FLIPが腸上皮細胞や肝細胞で欠損したマウスでは、出生後2日以内にほとんどすべての個体が重篤な腸炎や肝炎により死亡することが明らかになったのである。
これは、これまでに報告されたNF-kBによって発現が制御されているどの遺伝子欠損マウスの表現型よりも重篤なものだ。またc-FLIPの欠損した腸上皮細胞や肝細胞は、アポトーシスだけでなく計画的ネクローシスも著明に亢進していることが明らかとなった。
以上から、c-FLIPは細胞死シグナルを抑制することで、腸管や肝臓の恒常性維持に必須の役割を果たしていることが初めて明らかとなったのである。
今回の研究成果は、炎症性腸疾患や肝炎などを治療する上で、c-FLIPが新たな標的分子となる可能性を示したものだ。具体的には腸や肝臓で細胞死が亢進しているような病気の場合には、c-FLIPの発現を人工的に上昇させ、病気を治療するという方法が考えられるという。
潰瘍性大腸炎やクローン病、あるいは肝炎などのヒトの疾患でも細胞死が亢進していることが示されており、人工的にc-FLIPの発現レベルを上昇させるような薬剤が、このような疾患の新たな治療法になる可能性があるとしている。