産業技術総合研究所(産総研)は10月22日、大量のデータの複雑で高速な処理が必要な衛星画像解析システムをクラウドコンピューティング上で容易に開発できる、画像解析ワークフローソフトウェア「Lavatube2」を開発したと発表した(画像1)。

成果は、産総研 情報技術研究部門 サービスウェア研究グループの岩田健司研究員、同・小島功研究グループ長、同・中村章人主任研究員、同・ジオインフォマティクス研究グループの中村良介研究グループ長らの研究グループによるもの。研究の詳細な内容は、10月25日・26日に産総研つくばセンターにて開催される「産総研オープンラボ2012」にて紹介される予定。

画像1。衛星画像解析による三陸沿岸地域の震災復旧に向けた変化の可視化

画像解析は、衛星による地球観測を初め、医療、防犯、工場での品質検査など、さまざまな分野で必要とされるなくてはならない技術だ。特に近年になって、多くのセンサからの画像情報がデータ化され、大量に蓄積されつつある。

特に衛星画像は高度な解析処理により、環境や地質、自然災害などの調査や研究に役立つ付加価値の高い情報を得ることができるものであり、地球を周回する衛星上のセンサから大容量のデータが毎日取得されている。

このような大容量で大量のデータを解析できるクラウドコンピューティング技術が実現すれば、これまでにはなかった社会・科学に有用な知見が得られると期待されるところだ。

しかし、画像データは文書などの構造化されたデータと比べて情報量が多く、その解析方法も対象や目的により異なってくるため、解析方法の選択や組み合わせに専門知識を必要とし、データの有効活用の障壁になっていた。

今回開発されたLavatube2は、ユーザーインタフェース「Skylight」と実行エンジン「Deepcave」の2つのパートに分けてあるのが特長の1つ。実行エンジンDeepcaveをクラウド上に置き、ユーザーインタフェースSkylightをWebブラウザから提供するスタイルを採っているのだ。

画像2はLavatube2の構成を示す模式図であり、このような構成とすることで、次のようなメリットがある。まず、PCへのインストールが不要で、ユーザーはコンピュータの性能やOSなどの機器環境に依存することなくLavatube2を使用することが可能だ。

またSkylightでは、最新のウェブ技術であるHTML5を活用して、さまざまな処理や手順のプログラムを組み合わせた複雑な画像解析システムであっても、Webブラウザ上での簡単なマウス操作で容易に作成できる点もポイントである。

一方、実行エンジンDeepcaveによる実際のデータの解析処理は、ユーザーの手元のブラウザではなく、クラウド側で実行されるため、クラウドコンピューティングの計算能力を活用して大規模なデータを高速に処理することができるというわけだ。

画像2。Lavatube2の構成とそのメリット

Lavatube2は画像3に示すように、画像処理に必要な個々の機能はワークパッチと呼ばれるアイコンで表現され、OpenCVなどの画像処理ライブラリで提供される基本的な画像処理機能(カラー変換、フィルターなど)のワークパッチが、あらかじめ組み込まれている。

画像3は海岸線を検出する画像解析システムの構築例だ。左から衛星データの検索、検索した画像の取得、カラー変換、輪郭検出という処理の流れであり、Lavatube2では処理の順番通りにそれぞれの処理を示すワークパッチを順に接続してシステムを構築する。実際の処理手順と、画面上のワークパッチのつながりが1対1に対応しているため、わかりやすく直感的な操作となるというわけだ。

また、画像解析システムの開発者など専門知識のあるユーザーが、独自の画像処理や解析機能を組み込みたい場合には、ユーザーが開発されたプログラムを、ワークパッチとして追加できる。

画像3。Lavatube2の操作例(海岸線の検出)

Lavatube2には、地理空間情報の国際標準化団体Open Geospatial Consortium(OGC)が策定した標準仕様(カタログ検索サービスCSW(Catalogue Service for the Web)、地図サービスWMS(Web Mapping Service)、解析処理サービスWPS(Web Processing Service))に準拠した地理情報アプリケーションに適応するワークパッチも組み込み済みだ。

これにより、画像4に示すように「GEO Grid」を初めとするOGC準拠の地理空間情報を提供しているデータアーカイブなどに容易にアクセスし、解析することも可能である。

例えば、画像3の一連の処理の内、衛星データの検索と取得の処理を容易に作成できる。従来は衛星データの検索サイトなどを用いてデータを検索したあと、ユーザーの個別のPCに必要な衛星データをダウンロードしてから、ユーザー自身がプログラムを作成して解析処理を行っていた。これらの複雑で手間のかかっていた衛星画像の処理・解析のワークフローを、Lavatube2を用いて一括して実行することができるようになったのである。

画像4。Lavatube2による地理空間情報との連携

冒頭の画像1は、異なる日時の衛星のデータを比較することにより、変化した部分を抽出する画像解析システムをLavatube2で構築した例である。衛星データ検索時に三陸沿岸地域を指定し、2011年6月と2012年6月のデータを比較して、この地域の震災後の復旧に向けた1年の変化を検出して可視化している。

このような衛星データ間の変化を検出する処理技術は、日々刻々と変化する地球環境の監視、火山活動や防災などの研究、土地利用の解析などに利用できる重要な技術といえよう。

しかし、こうした変化検出システムの構築は容易ではなく、撮影時期による植生や天候の違いによるデータ品質のばらつきや、検出したい対象(地殻変動や建造物など)や目的により、処理内容や手順が異なり、それに合わせたパラメーターなどの調整も必要となる。

こうした問題に対しLavatube2では、さまざまなアルゴリズムやパラメーターの組み合わせを、ユーザーがその場で実行しながら試行錯誤し開発を行うことができるようになっている点もポイントだ。

このようにしてLavatube2を用いて作成された画像解析システムはクラウドに保存され再利用や作成者以外との共有ができる。また、そのシステムに変更を加えて改良していくことも可能だ。

このように衛星データを利用した研究開発サイクルを支援することで、社会・科学に有用な新たな知見を得るための情報基盤を構築することができ、地理空間情報の利用だけでなく、その解析技術の活用も促進されるのである。

Lavatube2は産総研が研究開発しているGEO Gridにおける衛星データ解析システムに組み込み、地球観測やITの研究者、技術者が利用できるウェブサービスとして提供し、実証実験を行う予定だ。

Lavatube2は極めて容易にデータ処理を行い、地形や土地の変化を検出することができるので、一部の機能を一般向けに公開し、自治体における防災計画の策定などを初めとする一般的なニーズの掘り起こしを行うという。

さらに、Lavatube2は衛星データだけではなく、さまざまな画像データ解析に利用できることから、例えば、医療画像の診断支援や監視カメラ映像による防犯など、大規模な画像データ解析技術の活用が望まれている分野へも応用展開を図っていくとした。