マンダムは10月18日、Transient Receptor Potential(TRP)チャネルの1つであるTRPM8(冷感センサ)について、反応温度が一定ではなく、外部温度に依存して大きく変化することを見出し、人が冷たいと感じる温度が外部温度に影響を受けるメカニズムを解明したと発表した。
同成果は自然科学研究機構・岡崎統合バイオサイエンスセンターの富永真琴教授との共同研究により、皮膚の感覚のセンサとして、TRPチャネルに着目した化粧品の評価法の開発およびその製品への応用の一環として行われたもので、詳細は2012年10月15日~18日に南アフリカで開催された「第27回 国際化粧品技術者会(IFSCC)ヨハネスブルグ大会」において発表された。
温度感覚のメカニズムは、15年ほど前に温度感受性「TRPチャネル」が発見されて以来、徐々に解明が進められており、人は反応温度の異なる9つの温度センサを持つことにより、精度良く温度を感じることが出来るということがわかってきている。一方、人の温度感覚は、冷水に浸かった後にぬるま湯に浸かると"温かい"と感じるが、熱いお湯に浸かった後に同じぬるま湯に浸かると"冷たい"と感じるように、外部温度に影響を受けやすいことが良く知られていた。しかし、こうした同じ温度でも冷たく感じたり温かく感じたりする仕組みはこれまで解明されておらず、研究チームでは、冷感に着目し、TRPM8の反応温度が外部温度に影響を受けるかどうかの調査を行った。
これまでTRPM8の反応温度は約27℃であると言われていたため、人の皮膚温(約32℃)が5℃低下することで人は冷たいと感じるものだと考えられてきた。しかし実際は、それ以上の温度でも冷たいと感じるものの、その原因は不明であり、今回の研究では外部温度を変化させた時にTRPM8の反応温度が変わらないかを細胞を用いて調べた。
結果、27℃以上の温度でもTRPM8が反応することが判明。これにより、反応温度が外部温度に依存して変化するということが確認された。つまり、一定の温度ではなく、外部温度によって、人が冷たいと感じる温度が異なるのは、このTRPM8の反応温度の変化によるものであることが明らかになったのである。
さらに、このTRPM8の反応温度の変化をコントロールするメカニズムを調べるために、細胞膜上の特定のリン脂質(ホスファチジルイノシトール4,5-二リン酸)がTRPM8に結合することに着目。リン脂質を実験的に少なくしたところ、外部温度の変化によって起きるTRPM8の反応温度の変化が起きなくなることが確認された。これにより、外部温度が引き起こす冷感センサの反応温度の変化には、細胞膜上のリン脂質が関わっていることが明らかになったというわけである。
TRPM8の反応温度は清涼成分によって上昇し、その結果、人は暑い時でも冷たさを感じることが出来る一方、過度の清涼成分は肌の温度が下がっても冷感を及ぼし、人によってはこれを不快感ととらえてしまう。そこで、暑い時に効果的に働くが、涼しくなった時には効果が下がるような清涼成分を見出すことを目的に、今回の成果を活用し、清涼成分の外部温度を変化させた時のTRPM8の反応温度への影響を調べた結果、ユーカリ油の主成分であるユーカリプトールが外部温度が高い場合に効果的に効く成分であることが見出されたという。
さらに、皮膚温が運動や入浴によって上昇している時のユーカリプトールの清涼感は、皮膚温が正常である時と同等のものであることも判明した。一方、主要な清涼成分であるメントールは正常な皮膚温での清涼感は、皮膚温が高温のときよりも高い傾向がみられたという。
これらの結果から、ユーカリプトールは皮膚温が正常時でも上昇時でも快適な冷感を効果的に与えることが出来る清涼成分であるということが考えられることから、同社ではユーカリプトールを今後、快適な清涼感を有する製品へ順次応用していく方針としている。