前世代機比1.7倍の性能向上を果たした「GARIS-II」も設置済み

この後、GARIS内で緩くカーブし、電磁石を使って、入射イオンビームや不必要な(バックグラウンドの)元素からターゲットの元素だけをふるい分けていく。イオンビームはカーブしている部分で内側に軌道を描いてビームストッパーに直撃し、それ以外の軽い元素もコースを外れて、検出器までは届かない仕組みになっているのである(画像30)。

亜鉛-70をビスマス-209にぶつけて合成に成功した場合、113番新元素の質量数は279となる。合成直後は励起状態なので基底状態になるために、合成直後にすぐさま中性子を1つ放出。こうして、質量数278の113番新元素が誕生し、最終的に「飛行速度検出器」および「半導体検出器」に到達してゴールというわけだ(画像33)。

ただし、113番新元素はあっという間に崩壊するため、ここに到達してから、4連続もしくは6連続でα崩壊を起こして、既知の原子核にたどり着き、新元素であることが確認されるのである(画像34)。

画像33。中央の銀箱が検出器。すでに113番新元素はα崩壊チェーンと自発核分裂で姿を変えてしまっているが、その名残がこの中にある

画像34。3例の113番新元素のα崩壊チェーン

ちなみに、GARISが「気体充填型」である理由は、ヘリウムガスで満たされているからだ。なぜヘリウムガスで満たすかというと、目的とする新元素がターゲット円盤の薄膜からどのようなイオン価数で飛び出してきても、収集できるようにするためである。

それから、実はGARISの手前に、まだ調整中の状態だが、性能をアップさせた「GARIS-II」が2010年3月から稼働している(画像35・36)。ただし、新元素の検出では、「条件を変えないこと」が重要なので、113番新元素の命名権を獲得するまでは(おそらく、半年以内には森田准主任研究員らが獲得できるとものと信じているが)、4例目、5例目の検出を目指している最中は新型装置は使用されないということだ。

ちなみにGARIS-IIは、GARISよりも電磁石が1つ多く、全長が約60cm短い。GARISよりも性能が1.7倍ほどアップしており、より多くの超重元素を効率よく集めることができるという(合成されても新元素の飛行コースがよくなくて、検出器でキャッチできないという可能性がより低くなっている)。

画像35。GARIS-IIを上方から

画像36。GARIS-IIを近くから。左のターゲットをセットする装置は空の状態

119番目以降の新元素発見のために合成方式にホットフュージョン方式に変更

そのほか、113番新元素の命名権を獲得した後は、119番以降の新元素を合成に挑戦するとしているが、合成方式をこれまでの「コールドフュージョン方式」から「ホットフュージョン方式」に改めるそうである。

なお、コールドフュージョン方式は新元素の合成に成功した場合、α崩壊チェーンで既知の原子核にたどり着きやすいが、合成できる確率自体が低いという弱点を持つ。

一方のホットフュージョン方式は新元素の合成に成功しても中性子過剰になりやすく、α崩壊チェーンでも既知の原子核にたどり着ける可能性が低いという弱点はあるが、119番以降を合成するには必須の方式とされている。

なお、合計3例の113番新元素を発見するまでに実際にビームを照射した時間は、日数にして通算553日(実際には2003年9月5日から2012年8月12日までかかっている)で、亜鉛-70の総量は約1.35×1020個=1垓3500京個、重量にするとなんと15.8mgという量である。ちなみにかかった電力料金は、約3億円ということだ。

しかし、これだけ照射してもたったの3例しかできていないのは、亜鉛-70がビスマス-209に当たらないこともあれば、当たっても壊れてしまったり、運悪く検出できなかったりする(検出器は100%検出できるわけではない)こともあるからだ。また、合成の成功確率を上げることはできないという。

そうすると、どうしたら発見しやすくするかというと、1つはビームの強度を上げて衝突回数を増やすことだそうだ。例えば、RILACのビーム強度を10倍にする(1秒間に25兆個のイオンを照射)という計画が実際にあるそうだが、ターゲット側がそれに耐えられるようにする必要もあるので(ただ溶けないようにぶ厚くすればいいというわけではないので非常に難しい)、簡単にビーム強度を上げればいい、というものでもないようだ。

また、検出器の検出できる範囲を広げて、見逃しをなくすというのも手だそうで、GARIS-IIもそのように設計されているそうである。

そして検出といえば、GARIS計測室。もちろん、検出された瞬間に見逃したらおしまい、みたいな仕組みではなく、すべてのデータは記録されているのはいうまでもないが、何らかの検出が行われた時に、担当者がわかりやすいよう、PCのモニタ上にウィンドウが開く仕組みになっている(画像37)。

ちなみに最初の発見の時も、今回の3例目の時も、113番新元素合成を目的とした研究室の責任者である森田准主任研究員は直接は担当していなかったそうだ。ただし、直接担当していた研究者も後から報告を受け、担当者ともども一緒に手が震えたそうで、記者会見の時も「今でも思い出しただけでも震えますね」と話していた。

理研の113番新元素合成の立役者、重イオン線形加速器RILACと気体充填型反跳核分離装置GARISなどの紹介は以上だ。今後も性能の強化が行われ、世界トップクラスの性能をもって、新元素の合成に挑戦していく。読者の皆さんも、日本に由来する新元素が誕生し、そして2個目3個目と増えていくよう、この装置たちと20年かけて新元素合成を求めて闘っている森田准主任研究員らを応援していただきたい。

理研 和光研究所 仁科加速器センターの重イオン線形加速器「RILAC」などの写真スライドショーはこちらから→