ルネサス エレクトロニクスは7月3日、収益基盤の強化に向けた生産効率化や財政基盤の強化に向けた国内生産拠点の体制見直しおよび人的合理化施策などを発表したのは既報の通り。同社は同日夕方、都内で会見を開き、同社代表取締役社長である赤尾泰氏ならびに同取締役執行役員 生産本部長の鶴丸哲哉氏が今回の施策に関する説明を行った。

ルネサス エレクトロニクスの代表取締役社長である赤尾泰氏

同社が2012年に抱げる経営方針は、「海外市場および自動車・スマート社会分野への集中」であり、コアコンピタンスとしてのマイコン事業の全方位的な強化と、マイコンとのシナジー効果によるアナログ&パワー製品(A&P)の強化を目指している。また、SoCに関しては抜本的な取捨選択を進めており、「こうした取り組みによる事業ポートフォリオの適正化を図ることで、強靭な収益構造の構築を目指す」(赤尾氏)としている。

今回の取り組みはこの"強靭な収益構造の構築"を目指した取り組みとなり、これを実現することで市況変動に耐えうる安定した事業ポートフォリオの構築と、営業利益率2桁以上を実現する体質の実現を目指すとしている。

同社が事業の核と見込んでいる海外市場および自動車・スマート社会分野への集中としては、車載半導体におけるトップシェアを今後も維持していくために進めているTSMCとの協業を深化させ、新市場の開拓を行っていくほか、A&P事業としてはマイコンとの組み合わせによるソリューションに対応する低耐圧などのパワー半導体の拡充を図っていくとしている。また、こうしたポートフォリオの拡充に合わせて、マーケティング機能の強化による新興市場での売り上げ拡大などを組み合わせていくことで将来の収益拡大を目指している。

ルネサスの現状の事業構造と目指す事業構造

一方の生産構造対策の方向性としては、自動車や化合物半導体などの注力分野に向けた生産体制の維持と強化を中心に残しつつ、それ以外の工場の在り方そのものの見直しが図られており、先端プロセスに関してはファウンドリへの委託の強化、後工程に関しては国内外のサブコンの活用の強化と海外生産シフトを進めることで生産の効率化を進めて行くとしている。

狙う市場は新興国を中心とした海外市場であり、集中する分野として自動車などを掲げる

前工程の国内生産拠点の再編としては、2012年7月1日に譲渡を完了した津軽工場を除くと、国内9拠点15ラインを保有しており、そのうち那珂事業所の200/300mmライン、甲府事業所の200mmライン、滋賀工場(ルネサス関西)の200/GaAsライン、西条事業所の200mmライン、川尻工場(ルネサス九州・山口)の200mmラインが生産負荷に応じた適正ラインで運営を継続するものの、高崎事業所、滋賀工場(ルネサス関西)、高知事業所の各150mmラインは生産能力を縮小しての運営、鶴岡工場(ルネサス山形)の100/300mmライン、山口工場(ルネサス九州・山口)の150mmライン、甲府事業所の150mmライン、高崎事業所の150mmラインは当面の間、生産能力を縮小させて運営をするも、最終的には事業譲渡もしくは譲渡先が見つからなければ集約(閉鎖)となる予定。

国内にある前工程9拠点15ラインのうち、200/300mmウェハを中心とする7ラインは維持。150mmウェハの3ラインも規模を縮小するも維持するが、5ラインは譲渡、もしくは集約(閉鎖)を検討していく。その内、鶴岡工場にはNECエレクトロニクス時代の主力であった300mmラインも含まれている

後工程の再編としても現在、国内では9拠点を有しているが、このうち米沢工場(ルネサス北日本セミコンダクタ)だけ生産負荷に応じた適正体格で運営するも、大分工場(ルネサス九州・山口)および熊本(大津)工場(ルネサス九州・山口)の2工場が当面の間、適正体格で運営するも将来の譲渡も検討していくほか、函館工場(ルネサス北日本セミコンダクタ)、青森工場(ルネサスハイコンポーネンツ)、福井工場(ルネサス関西)、柳井工場(ルネサス柳井セミコンダクタ)、山口工場(ルネサス九州・山口)、熊本(錦)工場(ルネサス九州・山口)については生産能力を縮小しつつ運営し、譲渡や集約が検討されることとなる。

国内にある後工程9拠点のうち、米沢工場は運営を継続するが、残りの8拠点に関しては生産規模を縮小して運営を行っていくも、将来的には譲渡や集約が実施されることが計画されている

ポイントとなるのは、この譲渡や集約がどの程度の期間でなされるかだが、赤尾社長は「時期のめどは、事業の方向性に合わせる形で生産の在り方を考えており、おおまかな方向性については枠が決まっているので、それにしたがって進めて行く。早いもの、時間のかかるもの、各ラインごとの事情があるので個別に答えられないが、全体としてやり遂げる時期は3年以内を計画としている」と語る。

また、譲渡などがそれぞれの地域に与える影響については、「当然、地域に与える影響、働いている従業員などの当事者や関係者に大きな影響を与えることも承知している。社長としての判断の軸はルネサスがなくなるか、何らかの痛みや犠牲を伴っても部分的にでも残すことが可能であるのなら、どちらを取るかと言われたらルネサスを残すということ。その一方で、その地域で日々の生活を営んでいる人々もいることも承知しており、我々の置かれている状況について、今回の判断に至った経緯を誠意をもって説明して理解と協力を求めていくつもり」(同)と、苦しい胸の内を示す。

工場の再編とともに進められる人的合理化施策については、対象人数の上限を設けない形で2012年10月末付による早期退職優遇制度を実施する。同社としては、「営業利益2桁%の実現のために必要となる規模が五千数百名」(同)とみており、この結果、次年度以降、年間で430億円の費用削減効果を見込むほか、事業構造対策と生産構造対策も進めることで、さらなる費用削減効果を見込んでいる。

ルネサスは2011年にもリストラを実施しており想定応募者数1200名に対し1487名の応募があった。その時の特別加算金支給は約200億円で、国内連結ベースで年間約130億円の人件費削減を見込んでいた

「こうした工場の統廃合と人員削減の実施をやりきることで、市況変化に耐えうる強固な収益基盤が確立でき、半導体のリーディングカンパニーとしての2桁%の利益率の道筋をつけるのが経営陣の仕事」(同)とのことで、身の丈にあった経営と、工場譲渡相手先をパートナーとする受託製造などを活用することで、収益基盤を強化を図っていくとした。