名古屋大学(名大)は6月28日、老化マウスから作製されたiPS細胞(人工多能性幹細胞)から、血管となる「血管前駆細胞(Flk-1陽性細胞)」への分化誘導に成功し、そのFlk-1陽性細胞は若年マウスから作製されたiPS細胞由来のFlk-1陽性細胞とほぼ同等の血管再生効果を有することを突き止めたと発表した。

成果は、名大大学院 医学系研究科 循環器内科学の柴田玲特任講師、室原豊明教授らの研究グループによるもの。研究の詳細な内容は、現地時間6月27日付けで米オンライン科学誌「PLoS ONE」に掲載された。

超高齢社会の到来により、生活習慣病などで血管が詰まり、血流が悪くなる心筋梗塞や閉塞性動脈硬化症などの患者数は顕著に増加している。通常はバイパス手術やカテーテルによる血管内治療を行うが、このような治療が不可能な重症例も増加している状況だ。

こうした重症例に対する新しい治療法として、虚血部周辺の組織から血管再生や側副血行路の発達を促し、虚血領域とその周辺組織の血流を改善し、組織障害や壊死を軽減させる目的で、iPS細胞などを用いた再生医療の応用が期待されている。

iPS細胞を用いた血管再生療法の臨床応用を考えた時、大半の患者は高齢者であることが予想される。この点で、高齢者の体細胞から作られたiPS細胞と、若年者から作られたiPS細胞が、血管再生に関して同程度の機能を保持しているか否かは、1つの重要なポイントとなるといえよう。

そこで研究グループは今回、胎児由来iPS細胞(Young-iPS細胞)と20カ月マウス由来iPS細胞(Old-iPS細胞)を用いて、iPS細胞からのFlk-1陽性細胞分化誘導効率の比較検討を行った。

その結果、研究グループの開発したFlk-1陽性細胞への分化誘導法を用いると、Old-iPS細胞を用いても、Flk-1陽性細胞への分化誘導は、Young-iPS細胞と同程度の機能を保持し得ることが明らかになったのである(画像1・2)。

(画像1(左))のグラフは、Young-iPS細胞由来Flk-1陽性細胞とOld-iPS細胞由来Flk-1陽性細胞共に、内皮細胞(VECAD陽性細胞)及び平滑筋細胞(αSMA陽性細胞)への分化を確認した。(画像2)上側は、血管内皮細胞と共培養を行うと、いずれのFlk-1陽性細胞も管腔形成網への取り込みを確認した。下側は、いずれのFlk-1陽性細胞も、マトリゲル上で培養を行うと、血管内皮細胞様の構造を示す

Young-iPS細胞とOld-iPS細胞から(Flk-1陽性細胞)のみを抽出し、ヌードマウスに下肢虚血モデルを作成したのち、その虚血側に細胞移植が行われた。Old-iPS細胞由来FLK-1陽性細胞移植群は、Young-iPS細胞由来Flk-1陽性細胞移植群同様に、コントロール群と比して下肢虚血側の血流改善を有意に認めた(画像3・4)。

画像3(左)・4。レーザードップラー法を用いて、細胞移植後の血管再生による血流の変化の解析を行い、マウスiPS細胞由来Flk-1陽性細胞移植が、虚血部血管新生能を有することを確認した。老化マウスから作製したiPS細胞由来のFlk-1陽性細胞の移植でも、マウス胎児由来iPS細胞から誘導したFlk-1陽性細胞と同程度の血管新生能があることを確認した

iPS細胞のヒトへの臨床応用には、iPS細胞移植の効率性、さらなる安全性の検討を要する。そのため、研究グループは今年度中に、大動物(ブタ)を用いた前臨床試験を予定しているとした。