沖縄科学技術大学院大学(OIST)は5月16日、沖縄本島及び西表島の川からハゼ科の新種を発見し、「ヒスイボウズハゼ(Stiphodon alcedo)」と命名したことを発表した。成果は、OISTマリンゲノミックスユニットの前田健博士らの研究グループによるもの。研究の詳細な内容は、仏学術雑誌「Cybium」に掲載された。

前田博士らがこの魚に出会ったのは、2006年、沖縄本島の川でスノーケリングによりほかのハゼ科魚類を観察していた時のことだった。ハゼ科には非常に多くの種が含まれ、その分類には現在も多くの課題が残されているほどだ。

前田博士は、当初、この見慣れないハゼをこれまで日本では見つかっていないフィリピン原産の既知種だろうと考えていたという。しかし、この魚の正体を明らかにするためシンガポールの博物館を訪ね、そこに保管されていたフィリピン産のハゼの標本を調べた結果、沖縄で発見した魚がそれとは異なる特徴を持つことに気づき、この魚は新種になるだろうと確信。そこで、この魚と近縁種の形態と遺伝子情報を慎重に比較分析し、本種が、体色、ひれの形状及び歯の数などに特徴を持つ新種であることを確認したというわけだ。

オスの頭部が繁殖期にメタリックな青緑色に輝くことから、前田博士は新種のハゼにカワセミを意味するラテン語を用いてStiphodon alcedoという学名を付け、またヒスイ(翡翠)ボウズハゼという和名を付けたのである。

新種、ヒスイボウズハゼは今のところ琉球列島の沖縄本島と西表島以外では見つかっていないが、前田博士によれば、この個体群が琉球列島に生息し始めたのは比較的最近のことである可能性が高いという。

ヒスイボウズハゼの成魚は川に住み、そこで産卵するが、孵化した稚魚はすぐに海に出て、しばらくの間そこで成長する。遊泳力の弱い稚魚は海流によって運ばれやすく、特に小さいサイズで孵化するボウズハゼの仲間は遠く離れた島まで分散する可能性があるというわけだ。

ヒスイボウズハゼがこれまで発見されなかった理由として、前田博士らは、この魚の稚魚が最近になって黒潮によってフィリピンから琉球列島に運ばれてきたからではないかと考えている。ただし、フィリピンではヒスイボウズハゼは見つかっていない。

前田博士によれば、フィリピンを初めとする東南アジアには魚類相が解明されていない地域が多いため、現在のところはヒスイボウズハゼのルーツを特定するのは困難だという。

同じように海流に運ばれている魚はほかにもあると考えられることから、そうした魚の出身地の魚類相を明らかにすることによって、それらの稚魚が分散するメカニズムを解明できるかも知れないとしている。

画像1(左)が繁殖期のヒスイボウズハゼのオスで、画像2がメス。宝石のように輝くオスに対し、メスは海底の砂地に溶け込んでしまいそうな落ち着いた色合いである。最大で全長は6cm程度。前田博士が撮影