坂口治療室、社団法人日本健康機構(健康機構)、オルトメディコ、医療法人社団盛心会 タカラクリニック(タカラクリニック)の4者は5月8日、筋緩消法が腰痛に及ぼす影響についての研究を行い、新たに考案された「筋緩消法」が腰背部の筋緊張を軽減し、腰痛の自覚症状を改善する可能性が示唆されたと発表した。

成果は、坂口治療室の坂口廣純氏、健康機構の坂戸孝志氏、オルトメディコの山本和雄氏、鈴木直子氏、椎塚詰仁氏、タカラクリニックの髙良毅氏らの研究グループによるもの。今回の筋緩消法は、坂戸氏によって考案された。

腰部は上半身の荷重を支え、全身の動作や姿勢の制御を司る。すなわち、腰部は人が2足歩行で生活を営む上で、文字通り「要」となる部位だ。その一方で、多くの人が腰部の痛み、すなわち腰痛を訴えている。

厚生労働省による平成22年度国民生活基礎調査によれば、男性における腰痛の有訴者率は肩こりなどのほかの有訴症状と比較して最も高く、人口1000人中89.1人であった。女性の有訴者率は肩こりに次いで第2位であり、有訴者率は1000人中117.6人だったのである。

また、腰痛を理由として通院する人の割合は、男性では人口1000人中40.4人、女性では57.5人であり、通院理由としては男性で第5位、女性では第4位であった。成人の約80%が一生に1回は酷い腰痛を経験するとの報告もあり、腰痛は非常に身近な症状といえる。

腰痛は、症状が強くなると運動や歩行などの日常的な動作に支障を来すようになり、重篤な例では車椅子を用いなければならなくなることもあるほどだ。このように、腰痛は生活の質(QOL)を低減させる非常に身近な要因であり、腰痛への適切な対処は、人々が健やかな生活を送る上で重要である。

腰痛への対処としては、薬物療法、脊椎マニピュレーション、適度な運動療法が有効であるという。しかし、腰痛の内の85%は器質的変化と症状とが結びつかない非特異的腰痛であるとされており、明確な診断や治療方針の決定が困難な症状でもあるのだ。

このような状況下において、前述した3種の治療法以外にも、腰痛に対して経験的もしくは民間療法的に用いられる治療法や技法が存在する。こうした技法の腰痛に対する有効性が示されれば、腰痛治療に新たな選択肢を与えることにつながる。今回行われた試験では、腰痛に対する新しい治療技法の1つである筋緩消法について、その有効性が検証された。

坂戸氏は、腰痛を自覚する者に対して筋肉の過緊張を軽減することを目的として筋緩消法を実施してきた人物だ。これまでに、筋緩消法を施術された者からは痛みが軽減したという感想は得られているものの、腰痛への有効性を明確に示すエビデンスは未だにない。

そこで今回行われたオープントライアル型の試験では、腰痛を自覚する男性7 名、女性8名、平均年齢は47.9±13.4歳の計15名が参加。筋緩消法が腰痛の1症状である腰部筋緊張に及ぼす影響が検討された。非特異的な腰痛を発症している男女に対し筋緩消法を実施し、その前後における腰部筋肉の緊張を定量的に評価する筋肉の硬度(筋硬度)を測定し、客観的指標としたのである。

一方、腰痛の自覚症状やリラックスなど、試験参加者の主観的な反応を検討するため、「VisualAnalogue Scale(VAS)」を用いた評価が行われた。さらに、抗酸化能検査や血液検査も実施し、筋緩消法の安全性についても検討が行われた形である。

試験参加者は、立位にて筋緩消法が施された。施術者の右拇指を試験参加者右側背部(腸骨稜の高さ)に、右示指から第5指を腹側施術箇所に当て(画像1)、試験参加者は側屈運動を行った(画像2)。施術の進行に伴い、指を当てる位置は、上下方向へと適宜変更されている。

画像1(左)・2。施術風景

施術は、左右の腸骨稜を結んだ線上の右側部分の内腹側近傍(画像3:測定箇所3)に対して実施された。筋緩消法の施術は、柔道整復師の有資格者である坂口氏が実施。施術時間は10分であった。

筋緊張の程度を測定するために、腰部筋硬度の測定項目は画像3の通り、3ヵ所が設けられた。測定には、井元製作所製の生体組織硬度計「PEK-1」が用いられている。PEK-1は、2つのバネの弾性の違いを利用して、筋肉の硬度を測定する仕組みだ。筋硬度は0~100の値を取り、筋硬度が高いほど筋肉が固いことを意味している。

画像3。測定箇所および施術箇所。写真は、試験参加者の腰背部を右側から撮影したものだ

3つの測定箇所は、左右の腸骨稜を結んだ線上の右側部分であり、脊椎に近い場所から順に、測定箇所1、測定箇所2、測定箇所3としている。各測定箇所につき、筋硬度を3回ずつ測定し、その平均値がその測定箇所の筋硬度の値とされた。

腰痛の自覚症状やリラックスなど、試験参加者の主観的な反応を検討するため、試験参加者の主観的な疲労や腰痛に関する項目についての評価も行われた形だ。評価項目は「疲労回復度」「肉体的ストレス」「精神的ストレス」「腰の痛み」「リラックス状態」「体の動きやすさ」「体の軽やかさ」であり、VASを用いて評価が行われた。

血中の酸化ストレスは、「d-ROMs(Diacron-Reactive Oxygen Metabolites)」により、生体の抗酸化力は、「BAP(Biological Antioxidant Potential)」により、それぞれ評価を実施。

d-ROMsは、血中の「ヒドロペルオキシド(ROOH)」の濃度を測定することで、生体内の酸化ストレスを総合的に評価することが可能だ。BAPは、血漿中抗酸化物質が活性酸素に電子を与え、酸化反応を止める還元能力を計測し、抗酸化力を評価するというものである。

d-ROMs及びBAPは、ウィスマー製の活性酸素・フリーラジカル自動分析装置を用いて測定された。また、生体の抗酸化能を総合的に評価するために、修正BAP/d-ROMs比も算出されている。修正BAP/d-ROMs比は抗酸化バランスを表し、BAPをd-ROMsで除算、それをさらに7.541で除算したものだ。この数値は、高いほど酸化ストレスからの防御が有効な状態であることを意味する。

そして筋緩消法の身体への影響を検討するため、血液学検査及び血液生化学検査も実施された。血液学検査の検査項目は、白血球数、赤血球数、ヘモグロビン、ヘマトクリット、血小板数、平均赤血球容積(MCV)、平均赤血球色素量(MCH)、平均赤血球色素濃度(MCHC)及び白血球像。また、白血球像の結果値を白血球数に乗算することで、好中球、リンパ球、単球、好酸球、好塩基球の数についても検討が行われた。

血液生化学検査の検査項目は、AST(GOT)、ALT(GPT)、γ-GTP、ALP、LD(LDH)、LAP、総ビリルビン、コリンエステラーゼ、ZTT、総タンパク質、尿素窒素、クレアチニン、尿酸、CK、カルシウム、血清アミラーゼ、グルコース、総コレステロール、HDLコレステロール、LDLコレステロール、中性脂肪、遊離脂肪酸の22項目となっている。

試験は、参加者に対し筋緩消法を10分間実施し、その前後で測定項目に記載した検査項目の測定が行われた形だ。

筋硬度及びVASについて、筋緩消法の影響を検討するため、Wilcoxonの順位和検定を用いて摂取前と摂取後の検査値の比較が行われた。各検査項目について、施術前の検査値と施術後の検査値との間に変化がないという「帰無仮説」の検証を行い、帰無仮説が棄却された場合に有意差があると判定している。

統計解析では有意水準を5%とし、両側検定で有意確率5%未満(p<0.05)を有意差あり、有意確率5%以上10%未満(p<0.10)を傾向差ありという判定だ。また、抗酸化能及び血液検査については安全性の検討に留められている。

画像4が、施術前及び施術後における筋硬度について、平均値と標準偏差を示した表だ。筋硬度の全試験参加者での平均値は、測定箇所1では52.8から50.4へ(p=0.033)、測定箇所2では33.2から30.6へ(p=0.004)、測定箇所3では30.6から27.3へ(p<0.001)と、いずれも有意な低下を示した。

画像4。筋硬度(平均値±標準偏差)

画像5は、施術前及び施術後における主観的反応について、平均値と標準偏差を示した表だ。施術前と施術後との間に有意差が認められた項目は、疲労回復度(p=0.002)、肉体的ストレス(p<0.001)、精神的ストレス(p<0.001)、腰の痛み(p=0.013)、リラックス感(p=0.001)、体の動きやすさ(p<0.001)、体の軽やかさ(p<0.001)であり、いずれも改善していた。

そして画像6が、施術前及び施術後における酸化ストレス及び抗酸化能についての平均値と標準偏差を示した表だ。d-ROMsの基準値は200U.CARR~300U.CARRであり、施術後に基準値を超過する被験者が若干名散見された。

BAPの基準値は2200μmol/l以上であり、施術前に若干低目だったBAP値が施術後に大きく上昇している。修正BAP/d-ROMs比は、1を超えていると抗酸化機能がうまく働いていることを意味する。修正BAP/d-ROMs比は低下する傾向にあったものの、施術後にも1を超えており、抗酸化バランスは良好であった。

画像5。主観反応(平均値±標準偏差)

画像6。抗酸化能(平均値±標準偏差)

画像7は、施術前及び施術後における血液検査の結果についての平均値と標準偏差を示した表だ。施術後に、白血球亜種の内、リンパ球数と好中球数が上昇する傾向にあり、ASTやALTをはじめとする肝機能マーカーが上昇する傾向にあったが、いずれも基準値内の変動であった。

また、総コレステロール及び遊離脂肪酸の平均値は施術後に基準値を超えて高値を示したものの、施術前の段階からそれぞれ5名ずつが検査基準値を超過しており、そのほかの脂質マーカーの値も施術前の段階から全般的に高値を示す者が多かった。

画像7。血液検査(平均値±標準偏差)

筋緩消法では、筋肉内の老廃物が正常に排出されないために腰痛が生じると考えているという。すなわち、腰部の筋肉が過度に緊張することによって筋肉内の血管が圧迫され、老廃物の排出が妨げられ、それが筋肉のさらなる緊張を生むという悪循環が生じてしまうのだ。

筋緩消法は、西洋医学的病態における椎間板ヘルニア、脊椎管狭窄症、圧迫骨折など原因の特定されない非特異的腰痛、すなわち椎間板、椎間関節、仙腸関節、背筋などの腰部組織に原因の可能性がある腰痛を対象としている。

筋緩消法は、背側筋群(広背筋、下降鋸筋)や腹側筋群(外腹斜筋、内腹斜筋、腹横筋)を緊張状態(収縮状態)にしたり弛緩状態にしたりしながら、腰背部の筋肉の狭い範囲に圧力をかけることで、腰部筋肉の過緊張を軽減する仕組みだ。

この「被施術者を立位の状態で施術を受けかつつ運動をさせながら、筋肉に圧力をかける」点が特徴である。従って、骨格の歪みを圧迫や牽引により矯正して筋肉痛を解消するカイロプラクティックとは異なるものだ。

また、ストレイン・カウンターストレイン法は筋肉群の緊張部位を緩めた状態で固定し、緊張した筋肉と拮抗筋とのバランスを取ることで筋肉群の過緊張を軽減する。

そして、いずれの方法も施術時間は30分を要するのに対し、筋緩消法は10分で腰痛が軽減されるという点も特徴だ。

今回の試験で、筋硬度は3ヵ所の測定点のいずれにおいても、筋緩消法の施術により有意に低下した。このことは、腰部の筋肉が施術により柔らかくなったことを意味しており、筋緩消法が腰部の筋緊張を解す作用があることが客観的に証明された。

さらに、主観的反応については、測定した7項目すべてにおいて有意な改善が認められた形だ。特に「体の動きやすさ」においては2.5点から5.4点へと、「体の軽やかさ」においては2.5点から5.6点へと、それぞれ施術前比100%以上の改善が示された。筋硬度の結果と考え合わせると、筋緊張が解れたことで腰の可動域が増え、そのことが体の動きやすさや軽さの実感へとつながったのではないかと考えられる。

「腰の痛み」においても3.0点から4.4点へと施術前比47.7%の有意な改善を示したことから、筋緩消法が腰痛を軽減し得る可能性が示唆された。酸化・抗酸化マーカー及び血液検査においては、酸化ストレス及び抗酸化力がいずれも上昇する傾向を示したものの、両者のバランスは保たれていた形だ。

脂質マーカーが高値を示す傾向にあったが、施術前から高値を示す者が多かったことから、施術による重篤な変動ではないと考えられた。総じて、酸化・抗酸化マーカー及び血液検査の結果からは、重篤な体調変化を来した被験者は認められず、筋緩消法の施術による副作用は認められなかったというわけだ。

今回の試験の結果より、筋緩消法により腰部筋緊張が軽減し、腰痛が改善する可能性が示唆され、筋緩消法によると考えられる重篤な副作用は認められなかった。以上より、筋緩消法は、腰部筋緊張や腰痛の軽減に対して有効であり、かつ副作用の少ない安全な手技療法である可能性が示唆されたのである。

今後は、対照条件を用いた比較試験を実施することで、より精度の高いエビデンスを積み重ねることや、腰痛以外の症状への適用可能性について検討することが望まれると、研究グループはコメントした。またそれらに加え、教育体系を構築し整備することで、筋緩消法は科学的な施術技法として広く実施される可能性を秘めているといえるとしている。