茨城大学や国立天文台などの研究チームは、「HD169142」という若い恒星を取りまく円盤中に、惑星の存在を強く示唆する兆候を観測したと発表した。

成果は、茨城大学理学部の百瀬宗武教授、同岡本美子准教授、茨城大学大学院理工学同研究科M2の森田彩佳氏、大阪大学大学院理学研究科の深川美里助教、神奈川大学理学部の本田充彦特別助教、同田村元秀准教授、国立天文台光赤外研究部の橋本淳研究員、SEEDSプロジェクト/HiCIAO/AO188チームら共同研究グループによるもの。

詳細な研究内容は、3月18日に京都大学で行われた日本天文学会2012年春季年会において「HD169142に付随する星周円盤のSubaru/HiCIAO近赤外撮像観測」として発表された。なお今回の成果は、太陽系外惑星と円盤をすばる望遠鏡を用いて探査する国際プロジェクト「SEEDS」プロジェクトによって得られた成果である。

「HD169142」(画像1)は、水素核融合を起こす前の段階にある「前主系列星」の恒星の卵だ。地球からはいて座の方向470光年の距離にあり、太陽の約2倍の質量を持つ。年齢は前主系列星としてはやや古く、約600万年だ。

画像1。HD169142の天球面上での位置

過去の観測から、この恒星の周囲には、半径230AU(天文単位:1AU=1億5000万km)に広がった円盤が存在することが知られていた。また、恒星から20AUの範囲には、円盤物質が希薄になっている「穴」があることも間接的に示唆されていたのである。

この円盤の様子を詳しく探るために今回使用したのが、すばる望遠鏡に搭載された惑星探査用カメラ「HiCIAO(ハイチャオ)」だ。HiCIAOは、地球大気による像の揺らめきを高精度で補償するシステムと組み合わされて動作するコロナグラフである。恒星からの直接光をマスクで隠し、その周囲に広がる淡い光の画像を取得する仕組みだ(画像2)。

画像2。HiCIAOの概念図

今回HiCIAOが捉えたのは、円盤表面付近の塵粒子が散乱した赤外線である。散乱赤外線には、振幅方向に偏り(偏光)が生じる特性を持つ。HiCIAOは、光を2成分に分けた後に両者の差を取ることができる光学系(差分光学系)で構成されており、偏光成分を効率的に抽出可能だ。これにより、円盤起源の赤外線をより選択的にとらえることに成功した(画像3・4)。

画像3。今回とらえた円盤散乱光の概念図

画像4。円盤散乱光に生じる、振幅の偏り(偏光)の概念図

その結果、波長1.6μmの赤外線において、恒星から29AU以遠で有効な偏光強度画像を取得(画像5)。画像としては、かつてない鮮明さで恒星近傍の円盤を捉えたもとなった。

この中に、半径51~87AUの範囲で「溝状」に偏光強度が暗くなっている領域の存在が、今回初めて確認されたのである。また、溝の内縁と外縁に相当する場所がリング状に明るくなっていることも明らかになった。

画像5。得られた偏光強度画像。黒い部分がマスクの範囲を、十字が恒星の位置をそれぞれ表す。スケールバーは100AU

この画像で特に注目されるのは、回転対称もしくは180°対称から著しく外れた模様が見られる点だ。具体的には、内側のリング(半径39AU)の明るさが一様でないことや、溝の中(半径65AU付近)に明るい斑点状の模様が見られる点が挙げられる。

このように著しく非対称な構造を、中心にある恒星の影響だけで作るのは困難だ。一方、もし円盤内に原始惑星が存在していれば、そこを起点とした擾乱によって円盤内に非対称な構造を作り得る。つまり、今回発見された円盤の模様から、惑星の存在が強く示唆されるというわけだ。

なお、惑星の存在が最も強く疑われる領域は、恒星から20AU以内の穴の領域(本観測ではマスクの背後)、および半径51-87AUにある溝の間である。なお、惑星系に関わる円盤として知られているのは、次の2種類だ。

(a)前主系列星に付随する、惑星系の母胎と見られる原始惑星系円盤。(b)主系列星(太陽など、水素の核融合反応をエネルギー減として安定して光っている大部分の恒星のこと)に付随し、惑星系内で起こる小天体同士の衝突で供給された塵粒子により維持されていると見られる残骸円盤だ。

HD169142は前主系列星であり、その面からは円盤は(a)に分類される。しかし、HD169142はやや古い前主系列星である上に、今回の観測で新たに惑星の存在が強く示唆された。これらのことから、実際は(a)から(b)へと遷移する途中の、ユニークな進化段階にある円盤だと推測された形だ。

現在、南米チリで建設が進められ、2011年から部分運用が始まっている大型電波観測装置「アルマ望遠鏡」(画像6)が完成すると、HD169142の円盤を解像度約1AUで観測できるようになる(画像7)。惑星の存在をより直接的に検証し、その形成過程の詳細を明らかにできるものと期待されている。

画像6。ALMA近影。(c) ALMA(ESO/NAOJ/NRAO)/J.Guarda(ALMA)

画像7。原始惑星系円盤中に原始惑星が存在している状況をALMAが観測した場合に得られる画像のシミュレーション。(c) Wolf & D'Angelo(2005),ALMA Web Pageより