東京大学は3月13日、代替石油資源として期待されている微細緑藻「Botryococcus braunii」(B. braunii)が大量に生産する「ボツリオコッセン」および「メチルスクアレン」という「トリテルペン系炭化水素」に、メチル基を導入することのできる新奇酵素遺伝子の特定に成功したと発表した。

成果は、東京大学大学院農学生命科学研究科水圏生物科学専攻の岡田茂准教授と、ケンタッキー大学、テキサスA&M大学の研究者らによる国際共同研究グループによるもの。詳細な研究内容は、「Journal of Biological Chemistry」に掲載された。

B. brauniiは単細胞性の微細緑藻だが、個々の細胞を「細胞間マトリクス」と呼ばれる自分自身で作るポリマーによりつなぎ止めて群体を形成する(画像1)。

画像1。B. brauniiの群体と染み出す液状炭化水素

B. brauniiは乾燥重量の数10%におよぶ大量の液状炭化水素を生産・蓄積するのが特徴だ。この炭化水素は光合成により環境中の炭酸ガスを固定することで作られるので、燃やしても新たな二酸化炭素を排出する心配はない。そのため再生産可能な代替燃料としての利用が期待されている状況だ。

また、この炭化水素は細胞内で生成した後、最終的には細胞外に排出され細胞間マトリクス部に蓄積される。そのため顕微鏡下で観察する際、カバーグラスで群体を圧迫すると、炭化水素がしみ出してくるのが見られる(画像1)。

一度細胞外に出された炭化水素が細胞内に再び取り込まれ、例えば栄養源として利用されるといった現象は確認されておらず、B. brauniiが何のためにこれほど大量の炭化水素を生産し、体外に蓄積しているのかは未だ謎だ。

B. brauniiは、生産する炭化水素のタイプによりA、BおよびLの3品種に分類される。そしてB品種は、ボツリオコッセン類およびメチルスクアレン類というトリテルペン系炭化水素を生産する(画像2)。

テルペンはテルペノイド、イソプレノイドとも呼ばれ、炭素数5のイソプレンを構成単位とする一群の天然有機化合物の総称だ。トリテルペンは6個のイソプレン単位、すなわち炭素数30の基本骨格を持つものを指す。

画像2。ボツリオコッセンおよびスクアレンのメチル化とステロールのC-24メチル化の類似性

生成直後のこれらの炭化水素分子を構成する炭素数は30(C30)だが、順次メチル基が導入され、最終的には炭素数34(C34)程度の同族体になって蓄積する。しかし、そのメチル基を導入する酵素に関する情報は皆無だったというわけだ。

そこで今回研究グループは、「ボツリオコッセンおよびスクアレンにメチル基を入れる酵素は、すでに他生物においてよく知られているC-24ステロールメチル基転移酵素と似ているのではないか」という仮説を立て、当該遺伝子を探索した(画像2)。

その結果、C-24ステロールメチル基転移酵素と似ているタンパク質をコードしている6種類の遺伝子をB. brauniiから発見。これらの内、「トリテルペンメチル基転移酵素(Triterpene Methyltransferase=TMT)-1~3」と名付けたタンパク質を、C30ボツリオコッセンあるいはスクアレンを蓄積できる遺伝子組換え酵母の細胞内で発現させたところ、TMT-1あるいはTMT-2を発現させた酵母では「モノメチル」および「ジメチルスクアレン」が蓄積し(図3)、TMT-3を発現させた酵母ではC31およびC32ボツリオコッセンが蓄積した(図4)。

画像3。TMT(Triterpene Methyltransferase)-1および2はスクアレンをメチル化する

画像4。TMT-3はボツリオコッセンをメチル化する

また、大腸菌で作らせた当該タンパク質の調製液に、メチル基供与体である「S-アデノシルメチオニン」と共にスクアレン、またはC30ボツリオコッセンを基質として加えることで、同様の結果を得ることにも成功している。

ただし、TMT-1~3のいずれも、スクアレンあるいはC30ボツリオコッセンにメチル基を3つ以上導入することはできず、その点は謎だという。従って、3つ目以降のメチル基を導入する酵素は、今回見つかったものとは別に存在する可能性があると、研究グループではコメントしている。

炭素数30のボツリオコッセンもスクアレンも分子内に不飽和結合が多く、枝分かれした構造をしているので、軽質化を行うことで良質なガソリンに変換することが可能だが、より多くのメチル基が導入され、さらに枝分かれ構造が増えたボツリオコッセンやメチルスクアレンの方が燃料としては魅力的だ。

従って、今回発見されたメチル基転移酵素は、より質の良い炭化水素系燃料を生産するために利用できる可能性があるとしている。