最近、多くの企業が新入社員に求めているものが「コミュニケーションスキル」だ。それを習得できる場として、現役生・社会人・採用担当者が口を揃えて挙げるのが「学生寮」だという。協調性や礼儀、人脈などを手に入れられるという寮生活について、自分力開発研究所の調査結果をもとに考えてみよう。

目標を持って明るくポジティブになれるのが魅力

性格とポテンシャルに関する調査 資料:自分力開発研究所

上のグラフは、学生寮で実際に暮らしている学生と一人暮らしをしている学生の両方に性格診断テストをしてもらった結果だ。全体的に寮生のほうが自己評価が高い傾向にあるが、特に大きく差がついているのが「まわりを明るくする力」と「心をオープンにできる」という2項目。つまり、周囲の人と打ち解けることができ、明るく楽しめるという性格であるというわけだ。

就職活動では、OB訪問として普段は会わない先輩と会話をしたり、面接時に面接官に加えて同じ学生とも会話をしなければならなかったりすることがある。いち早く場に馴染み、自分らしさを出すことが求められる場で、引っ込み思案や受け身の姿勢では成功できない。しかし、寮生たちは自然に求められる行動がとれるようだ。

また、夢や目標という、将来像がどれだけ明確か、それを達成するためのイメージを持っているかという面でも寮生のほうが高い結果になっている。

夢や目標に関する調査 資料:自分力開発研究所

漠然と「社会貢献したい」とか「人の役に立ちたい」というような目標に加えて、具体的に達成したイメージまで持っているというのは好ましい。就活だけでなく、その先の生活の中でも具体的なイメージを持つ力は生きてくるはずだ。

健康かつ勉強に集中でき、学校にも短期間でなじめる「寮生」

現在の生活に満足しているという回答は、寮生が80.4%と高いものの、一人暮らしの学生も実家暮らしの学生もそれなりに充実感を持っている。しかし細かな部分に注目すると、学生寮の特徴が見えてくる。それは、「ある程度管理された環境」だ。

一人暮らしだと食事事情は悪くなりがちだ。栄養バランスを考えた自炊を続けるのはなかなか難しい。また、一人暮らしや実家暮らしの場合、学業に集中するための環境は自分で作り出さなくてはならない。一方、学生寮ならばバランスを考えた食事が出されるし、周りが学生ばかりなので自然と学業に集中できる環境になる。

寮という集団生活は一人暮らしと比べると自由度が低くなる一面、管理されている良さがある。また、高校までの学生生活とは異なり、クラス単位での行動がなくなる大学において、寮という固定されたコミュニティに所属することで人付き合いの輪に入って人脈を広げられるというメリットもあるだろう。

実際、「入学当時、(学校に)すぐなじむことができたか」、「入学当時、友達ができたか」という項目で、寮生の多くが「そう思う」と答えている。最近は、大学で友達を作れないまま孤独感を持っている学生が問題になっているが、寮生にはそういう心配はなさそうだ。

先輩社会人も人事担当者も「学生寮」を評価

現役生たちが寮生活でしか得られないものとして、人脈や協調性といった集団生活のメリットを挙げている。では、寮生活を経験した先輩社会人はどうかというと、「学生時代に身につけたこと」と「役立っていること」の両方で「協調性」を挙げている。

寮生活経験者の意識 資料:自分力開発研究所

社会人になると、仕事を覚えながら同僚や先輩、上司、取引先といったさまざまな人々と人間関係を築かなければならない。学生時代とは違い、性格が合わないからといって簡単に離れることはできないのだから、難しい。しかし、学生寮で生活していれば、まったく違う環境で育った人間の集団の中で、努力し、我慢し、人間関係を育むことが学べるというわけだ。

採用する際に重要度が高い学生の性格TOP8 資料:自分力開発研究所

採用担当者が持つ寮生のイメージTOP6 資料:自分力開発研究所

こうした寮生活で得られるメリットは企業の採用担当者も感じているようだ。採用担当者に寮生のイメージを聞いたところ、トップの回答は「協調性がありそう」となり、「コミュニケーション力がありそう」、「礼儀作法」、「他人への気遣い」、「忍耐力」、「自己管理能力」などもありそうだと見ている。

一方、「採用の際に重要度が高い学生の性格」のトップは「協調性がありそうか」。入社した後の社員の中で「評価されている社員が持っている傾向」のトップは「コミュニケーション力」であり、第2位は「協調性」。これはもう、寮生なら社会人として活躍できる素質が十分に備わっていると言えるだろう。

さすがに現時点では、寮生だからといって採用時に好印象を持つという採用担当者はそれほど多くないが、好印象を持たないという答えも少ない。寮生なら、自己PRに「学生寮で身につけた協調性」を盛り込むとよさそうだ。

この調査のアドバイザーを務めた慶応義塾大学大学院・政策メディア研究科の金谷年展教授は、「採用担当者が重要視する学生の性格と採用担当者が持つ寮生のイメージのトップが『協調性』で一致しており、また、評価されている社員が持っている傾向とも合致していることは大変興味深い結果です。学生寮では自分と異なる価値観や興味を持つ学生が一緒に生活し、寮内で交流を深める中で、採用担当者が重視する『協調性』や『コミュニケーション力』が育まれているのではないでしょうか」と話す。

また、この結果を受けて全国に学生会館(学生寮)を展開する共立メンテナンス寮事業統括本部事業企画室では、「学生会館での生活経験は企業に採用後も生かされると思う。弊社の学生会館の中では、専門の講師を招いて館内で就職セミナーを実施しており、学生会館生の就職活動をサポートしている。」と回答している。