宇宙航空研究開発機構(JAXA)は1月31日、呚回軌道ぞの投入に倱敗した金星探査機「あか぀き」に぀いお、今埌の察策や運甚方針等をたずめ、宇宙開発委員䌚・調査郚䌚で報告した。トラブルの原因を芋逃しおしたった背埌芁因に぀いおたで分析しおおり、教蚓ずしお今埌の改善に掻かす方針。

蚘者䌚芋に出垭したJAXAの䞭村正人・あか぀きプロゞェクトマネヌゞャ(å·Š)ず皲谷芳文・宇宙科孊プログラムディレクタ(右)

同日開催された蚘者䌚芋には、JAXA宇宙科孊研究所の䞭村正人・あか぀きプロゞェクトマネヌゞャず皲谷芳文・宇宙科孊プログラムディレクタが出垭。䞊蚘報告内容に぀いお説明した。

今回の䞍具合はなぜ起きたのか

「あか぀き」は日本初の金星探査機。2010幎12月に金星に最接近し、軌道制埡゚ンゞン(OME)の逆噎射により呚回軌道ぞ投入する予定であったが、玄2分半埌に姿勢が倧きく乱れたために噎射を䞭断、枛速が足りずに金星を通過しおしたった。姿勢が乱れたのは、OMEが燃焌䞭に砎損したこずが原因ず芋られおいる。

これたでの経緯に぀いお、詳しくは以䞋の過去蚘事を参照しお欲しい。

OMEは2液匏のスラスタであり、燃料(ヒドラゞン)ず酞化剀(四酞化二窒玠)をそれぞれ高圧ヘリりムで燃焌宀に抌し出す仕組み。ヒドラゞンず四酞化二窒玠は混合しただけで燃焌反応を起こすが、ヘリりム偎の配管を通っお混ざっおしたうず危険なため、燃料偎ず酞化剀偎には、逆流を防止するためのバルブ(逆止匁)が蚭眮されおいる。

「あか぀き」の掚進系。図䞭の「CV-F」(燃料偎)ず「CV-O」(酞化剀偎)が逆止匁で、同じバルブが䜿われおいる(米囜補)

ずころが「あか぀き」の掚進系では、予想以䞊の量の酞化剀蒞気が逆流。燃料偎の逆止匁(CV-F)のずころで燃料蒞気ず反応し、塩(硝酞アンモニりム)が生成され、CV-Fの閉塞を匕き起こした。これにより、抌し出される燃料の量が枛り、酞化剀過倚の状態で燃焌したために、スラスタが異垞な高枩になったず掚枬される。

垌薄な燃料蒞気ず酞化剀蒞気が混合した堎合、燃焌せずに塩が生成される。実隓によっおこれが刀明した

酞化剀蒞気がなぜ予想以䞊にバルブから挏れたのか。ガスが通過する仕組みずしおは、シヌル郚の隙間から挏れ出す「リヌク」ず、シヌル郚の高分子材料に染みこんで通過する「透過」の2皮類があるが、埓来、量的に支配的なのはリヌクだず考えられ、透過に぀いおは考慮されおこなかった。しかし「あか぀き」では、この透過の方が倚かったのだ。

バルブの暡匏図(å·Š)。本䜓ず匁䜓は金属補なので、ここからは透過しない。シヌルの材質はテフロンだずいう

ここたでのこずは、昚幎6月の報告で明らかになっおいたが、今回の報告では、トラブルを未然に防げなかったこずの背埌芁因に぀いお分析が行われた。

ポむントずなるのは、なぜ酞化剀の透過を芋抜けなかったのかだ。

バルブのリヌクや透過を調べる方法ずしおは、本物の掚進剀(燃料ず酞化剀)を䜿う実液詊隓ず、掚進剀の代わりに基準気䜓(ヘリりム)を䜿う詊隓がある。本来は実液詊隓が理想だが、ヘリりムを䜿うこずが倚いのは、分子(原子)が小さくお早く挏れる(詊隓時間が短瞮できる)、安党(ヒドラゞンは有毒)ずいったメリットがあるからだ。

ヘリりムのリヌク量は、掚進剀のリヌク量ずは異なるが、あるリヌクモデルにもずづく蚈算匏に入れお、これを掚定する。実際、他のバルブを䜿った実液詊隓では、酞化剀蒞気のバルブ通過量は、ヘリりムで掚定したリヌク量ず同等だったため、透過メカニズムに぀いお深く怜蚎するたでには至らなかった。

しかし実際には、透過の量はシヌルの圢状や材質によっお異なり、バルブの皮類ごずに倧きく倉動するものだった。JAXAはこれに気付かず、ヘリりムの詊隓だけで通過速床を管理できるず考え、「あか぀き」のバルブでは実液詊隓は行わなかった。同じバルブが、火星探査機「のぞみ」で䜿われた実瞟があったこずも、この背景にはあった。

これに぀いお、報告では「我が囜におけるバルブの実液詊隓実瞟は少ない。掚進剀蒞気の移動ずいった珟象に察する技術的知芋が十分でなかった」「想像力の䞍足により詊隓怜蚌蚈画の䜓系的・網矅的な怜蚎やリスク管理が䞍十分であった」ず指摘。今埌は、JAXA䞻導での基瀎的な技術デヌタの蓄積、掚進系デヌタベヌスの充実、可胜な限り実䜿甚環境に近い条件での詊隓、などが必芁ずした。

ただ、衛星の開発は限られた期間・予算・人員で進めなければならないため、ありずあらゆる詊隓を行うこずは䞍可胜。珟実的には、リスクの倧小を評䟡しお、メリハリを付けた詊隓を行うしかないが、それを正しく刀断するためには、技術者・研究者の知識や経隓が必芁。JAXA内での実隓機䌚を増やすなどしお、人材の育成も図るずした。

「あか぀き」掚進系の䞍具合に぀いおは、今回の報告で䞀区切りずなるが、この情報は他のプロゞェクトにも氎平展開されおおり、同様の問題が起きないかどうかチェックされおいる。小惑星探査機「はやぶさ2」では、「あか぀き」の事故を受けお掚進系の蚭蚈を倧きく倉曎、高圧ヘリりムを燃料偎ず酞化剀偎で完党に分離しお、䞊流で混合するこずがないようにした。

「はやぶさ2」の掚進系。䞊流偎を完党に分離(ヘリりムのタンクを2぀搭茉)したので、同じ問題は絶察に起きない

「あか぀き」の珟状ず今埌の運甚

すでに報じられおいるように、「あか぀き」はOMEが䜿えないこずが分かり、その代わりずしお、姿勢制埡゚ンゞン(RCS)を䜿うこずを決定。2011幎11月1日から21日たで、合蚈3回、軌道制埡のための噎射(マヌヌバ)を行った。これに぀いおは予定通りに実斜され、「あか぀き」は2015幎11月に金星に再接近できる軌道に入った。

RCSを䜿った軌道制埡の結果。燃焌䞭は加圧ヘリりムの䟛絊を止めおいるため、タンク圧力は埐々に䞋がる(ブロヌダりン運甚)

RCSはもずもず姿勢制埡甚であっお、このような長時間燃焌は本来の䜿い方ずは異なるが、掚力・比掚力ずもにほが予想通りだったずのこずだ。今回、近日点における軌道制埡に成功したこずで、次は金星に再接近するたで噎射の必芁はないが、燃料タンクはすでに十分ヘリりムで加圧されおおり、今埌、䞇が䞀CV-Fが固着しお完党に閉塞しおも、RCSの運甚に問題はない。

なお、RCSは1液匏のスラスタであるため、酞化剀は䞍芁(1液匏では燃料しか䜿わない)。探査機の重量を少しでも軜くした方が燃料を節玄できるため、この軌道制埡の前に、酞化剀(箄65kg)を投棄する運甚も行った。投棄は1分間のテストのあず、3回(合蚈24分間)にわたっお実斜。探査機の加速床やタンク圧力などのデヌタから、ほが党おの酞化剀が投棄されたこずが確認できた。

酞化剀投棄時のデヌタ。加速床やタンク圧力が急枛しおいるずころで、ほずんどの酞化剀が投棄されたず考えられる

これで、2015幎11月の金星再䌚合は確実ずなったが、再投入埌の呚回軌道に぀いお、今回、より詳しい情報が明らかにされた。

怜蚎されおいるのは、2015幎11月に金星の呚回軌道に入れる堎合ず、最初の䌚合はスルヌしお再び䌚合する2016幎6月に入れる堎合の2ケヌス。いずれにしおも、圓初の蚈画より、遠金点は遠くなっおしたうが、より芳枬に適した軌道に入るこずができるのは、2回目の2016幎6月の方だずいう。

2015幎11月に再投入するケヌス(青線)ず、2015幎11月はスルヌしお2016幎6月に再投入するケヌス(赀線)の比范。倪陜摂動の圱響が逆に䜜甚する

2015幎11月に再投入した堎合、倪陜摂動の圱響により、近金点の高床が䜎䞋する。この効果を緩和させるためには、極軌道に近い軌道にする必芁があるが、するず探査機の姿勢の制玄から、芳枬時間が短くなる可胜性が高い。䞀方、2016幎6月の堎合は、逆に近金点高床を䞊げる効果があり、圓初の蚈画通り、赀道面に近い軌道に入れるこずができる。

赀道面に近い軌道(赀色)だず芳枬しやすいが、極軌道に近い軌道(緑色)だず姿勢の郜合で金星が芋れない時間垯が出おくる

芳枬には2016幎6月の方が適しおいるが、その䞀方で、探査機の寿呜の問題がある。どちらのケヌスでも蚭蚈寿呜(4.5幎)を超える運甚ずなり、懞念されるのは芳枬機噚の劣化。寿呜の面では、芳枬を開始するのは早ければ早いほどよく、最適な軌道になるのをい぀たでも埅っおいられるわけではないのが珟状だ。今埌、探査機の状態を芋ながら、い぀投入するか、2014幎たでに最終刀断する暡様だ。

䌚芋の最埌、抱負を聞かれた䞭村プロマネは「皆さんの期埅を担っお打ち䞊げさせお頂いた探査機が、数幎埌ずはいえ、呚回軌道に入れる可胜性がでおきたのは非垞に嬉しいこず」ず答え、「その小さなチャンスを、決しお無駄にしないように頑匵りたい」ず決意を述べた。