マイクロソフトのクラウドサービス「Office 365」について、その名を耳にしたことがある人も多いだろう。発表当初は、日々の仕事や生活の中で慣れ親しんでいるOffice WordやExcelといったビジネスアプリケーションが「ついにクラウド化」といった論調でも話題になった。

もちろん、その認識も間違ってはいない。たしかにOffice 365では、「Office Web Apps」の名で、ウェブブラウザから利用できるWordやExcel、PowerPointといったアプリケーション群も用意されている。しかし、それは「Office 365」の持つポテンシャルのごく一部でしかない。

日本マイクロソフト Officeビジネス本部 クラウドサービスマーケティング部 エグゼクティブプロダクトマネージャーの鷲見研作氏

今回、日本マイクロソフト、Officeビジネス本部 クラウドサービスマーケティング部 エグゼクティブプロダクトマネージャーの鷲見研作氏に「Office 365」登場の背景や、導入メリットについて話を聞いた。「単なるWordやExcelのクラウド化」ではない、Office 365の魅力を理解する一助としてほしい。

当初からクラウドでの利用を意図して作られたOffice

さかのぼること10年ほど前。すでにマイクロソフトは、Officeを単なるデスクトップアプリケーションをまとめただけのスイート製品から、新たなフェーズへとステップアップさせるための準備を進めていた。

「the Microsoft Office Systems」と呼ばれるこの構想では、WordやExcel、PowerPoint、Outlookといったお馴染みのデスクトップアプリに加え、メッセージング(メール)のためのサーバシステム「Exchange Server」、ポータル構築やドキュメント管理、検索機能などを持つコラボレーションプラットフォーム「SharePoint Server」、リアルタイムコミュニケーションのためのサーバ製品「Communications Server」などを有機的に統合し、各デスクトップアプリケーションとのシームレスな連携を実現することを目指していた。

その後、2000年代後半に加速するIT業界全体の「クラウド化」への急速なシフトに合わせ、同社ではExchange Server、SharePoint ServerといったOffice Systemsのコアとなるサーバ製品群をオンラインサービスとして提供することを決定する。それが、Office 365の前身となるクラウドサービス「Microsoft Online Services(MOS)」である。MOSは、同社が始めてOfficeスイートとしてクラウドに取り組んだ最初のサービスとなった。企業ユーザーが自社でサーバ製品を購入したり、管理したりすることなく、月額料金でその機能のみを活用できるサービスとして、さまざまな組織に導入された。

ご存じのとおり、現在、オンプレミス版のExchange Server、SharePoint Server、Lync Server(以前のCommunications Server)の最新バージョンは「2010」となっている。MOSの各製品が持つ機能を、最新版のサーバ製品と同等のものにバージョンアップしたものが「Office 365」ということになる。

では、Office 365は、単なる「MOSのバージョンアップ版」なのだろうか。実はそうではない。その理由について、鷲見氏は「今回のOfficeのサーバ製品群は、それぞれの製品担当がはじめからクラウドでの利用を考慮して設計を行っている」と説明する。「オンプレミス向けの製品を、クラウドでも利用できるように調整したもの」ではなく、当初よりクラウド向けに設計された製品という点で、以前のバージョンとは設計思想自体が大きく異なるのだ。

「クラウドはマルチテナント向けに設計されていることが当たり前。マルチテナントでの利用を前提に開発したことで、たとえば、お客様側での設定カスタマイズの要望があった場合に、従来のMOSではできなかったが、Office 365ではできるようになっている部分は大幅に増えている」(鷲見氏)

セキュリティ面での配慮も行われている。以前提供されていたMOSでも、企業ユースに十分なセキュリティレベルは確保されていたが、その利点を引き継ぎつつ、より「安心して使ってもらうための機能強化が行われている」という。例えば、ワールドワイドに提供されるサービスであることを前提に「EU Model Clauses」と呼ばれる欧州でのデータ保護規制に準拠しているといった点からも、そうした取り組みの一端が伺える。

マイクロソフトのOffice 365に対する強いコミットメントは、その名称にも表れている。鷲見氏は「単に看板製品である"Office"の名称をつけただけではなく、Officeとサーバー製品群の機能がますます連携を深めていくことを意味している。Office 365の企業向けプランには、Officeのウェブ版だけでなく、デスクトップ版のOffice Professional Plusのライセンスも含まれている。現時点はまだ過渡期にあるが、数年後には"Microsoft Office"と言えば、これらのウェブアプリ、デスクトップアプリ、サーバシステムの総体が想起される時代も来るに違いないと思っている。"365"は、その環境がいつでも利用できる状態で準備されていることを示す」と語る。

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