中小規模のほうがクラウドのメリットは生かせる
現在、ITシステムの「クラウド化」の波は、業種や業界を問わずに進んでいるが、特に日本では、どちらかと言えば大規模企業から導入が進んでいるようにも見受けられる。しかし鷲見氏は「クラウドのメリットは、中小規模の企業のほうが、より享受できるのではないか」と話す。
例えば、メールクライアントであるOutlookとの連携で、その能力を最大限に発揮できるExchange Serverの機能を月額で利用できる点などは、特に中小企業にとってメリットが大きいはずだ。従来、メールサーバとしてExchangeを導入できるのは、そうした投資を行える余力がある、比較的規模の大きな企業に限られていた。
Office 365の個人/中小企業向けプランである「Professional and Small Business」(プランP)の利用価格は、1ユーザーあたり600円/月。マルチテナントによるスケールメリットを十分に生かし、個人単位や小規模企業であっても、最新のIT環境を利用できるコスト的な条件を整えた。
鷲見氏によれば、プランPについては1ユーザーでの利用も珍しくないという。例えば、弁護士や社会保険労務士など、メールがエビデンスとして残っている必要性のある職業では、クラウド上のExchange Serverを利用できることによるメールデータの保全性、アーカイブ検索性の高さは大きなメリットとしてとらえられているという。もちろん、Office 365のシステムは、同社のセキュリティフレームワーク「ForeFront」による保護が行われており、スパム対策も標準で提供される。マイクロソフトがグローバルに展開するデータセンターで確保されているセキュリティレベルを、個人や数名の規模からでも享受できる点は見逃せない。
企業システムとの連携も容易な「プランE」
Office 365には、プランPのほか、より大規模な企業向けの「Office 365 for Enterprise」(プランE)が用意されている。プランEでは、社内で構築しているActive Directoryとの同期や、オンプレミスで設置されているExchange Server、Lync Serverとの連携、コンプライアンス対応のアーカイブ機能、フルタイムサポートなどの全機能が利用できる。プランEでは、利用できる機能によって1ユーザー1000円/月の「E1」から、2860円/月の「E4」までが用意されている。
既に、マイクロソフトの技術で構築されている企業システムとの連携がシームレスに行える点は、やはりOffice 365ならではのメリットと言えるだろう。また、専用のPCを持たない、店舗や工場といった拠点向けの「プランK」(1ユーザー401円/月、Exchangeのみ利用の場合は200円/月)も用意されており、これらのプランは必要に応じて選択し、組み合わせることができる。企業の業態や規模にあわせて、最もコストパフォーマンスが良い組み合わせを選ぶことができるのだ。
ビジネスニーズへの対応と「統合力」がOffice 365の強み
こうしたコラボレーション環境をクラウドベースで提供する企業は、現在数多くある。例えば、Googleが提供するGoogle Appsなども、そうしたサービスのひとつだ。これらの競合サービスについて、鷲見氏は「われわれの競合ではない」と言い切る。
「現在、クラウドで提供されているコラボレーションサービスには、コンシューマー向けのサービスとして始まり、それを企業向けに展開しているものが多いのが現状。Office 365については、ビジネスの世界で必要とされるさまざまな要件を聞き、バージョンアップを続けてきている」
また、サービス全体の「統合力」についても、マイクロソフトに一日の長があるとする。
「サービスとしては、Exchange、SharePoint、Lync、(クライアントの)Officeアプリと分かれてはいるものの、裏側ではしっかりと統合されている。例えば『プレゼンス(在席状況)確認』などは、本来Lyncの機能だが、その情報は、OutlookやSharePointに反映させることもできる。また、OutlookからSharePoint上で管理されているドキュメントを同期して使うといったこともできる。『連携することを前提に作られているサービス群』の威力は非常に大きいと感じている」(鷲見氏)
さらには、既に「情報資産」として大量に蓄積されている「Officeドキュメント」との高い互換性が保証されている点もメリットになる。ビジネス文書としてポピュラーなOfficeドキュメントについては、他社製のサービスでも「閲覧可能」をうたっているケースが多いが、実際に利用しようとすると、作り込んだドキュメントのレイアウトが崩れてしまい、実用に耐えないことも多い。もちろん、Office 365の「Office Web Apps」であれば、そのようなことはない。また、閲覧に加えて簡易な編集操作も可能となっている点も大きい。
そのほかにも、クラウドのメリットとして、機能の修正や追加がリアルタイムに反映され、すぐに利用できるようになる点も忘れてはいけない。日本でも端末が発売され注目を集める「Windows Phone」などとのより密な連携や、将来のOffice製品で提供される最新の機能の反映なども、随時行われていく。
企業の規模や業種、業態にかかわらず、Office 365が提供する利点を享受できるケースは多いはずだ。コラボレーション環境のクラウド化を考えるに当たっては、Office 365を含めて、ぜひじっくりと比較検討を行ってみてほしい。