東京大学先端科学技術研究センターと日本マイクロソフトは、肢体不自由や学習障害などの障害児がワープロソフトを利用して入学試験を受けることをサポートする目的で、支援ソフトウェア「Lime(ライム)」を共同開発、9日より無償で提供を開始した。

「Lime(ライム)」の起動画面

障害児の中には、筆記用具を用いて文字を記述することはできないものの、PCのキーボードを利用すれば執筆できる人もいる。しかし、ワープロソフトを利用して大学入試や高校入試を受験することを許可している学校はほとんどなく、障害児進学の阻害要因となっている。

国立大学の中でも、認める大学は少なく、対応は学校によってバラバラだという。中には、高校2年のときから大学にワープロソフト利用した受験を打診し交渉を続けたものの、結局、その国立大学からは使用を認めてもらえなかった生徒もいるという。

米国大学生1,900万人のうち、障害を持った学生数はおよそ200万人(10.8%)いるのに対し、日本の場合は大学・大学院・専門学校の学生324万人のうち、障害学生は約9,000人で、その比率は0.27%にとどまっている。東京大学先端科学技術研究センター 教授 中邑賢龍氏は、受験希望者はその16倍程度いるのでないかと説明。障害児に配慮した受験環境の整備が、日本において大きく遅れている状況を訴えた。

試験アクセシビリティ

東京大学先端科学技術研究センター 教授 中邑賢龍氏。中邑教授は、割り箸を使ってもキーボードを打つことができると、実演して見せた

学校側がPCでの受験を認めない理由は、漢字変換機能を有するワープロソフトを利用することは、他の受験生との公平性を担保できないというもの。そこで、東京大学先端科学技術研究センターと日本マイクロソフトは、日本語入力時に変換候補として表示された漢字がすべて保存(ロギング)され、受験生が試験中に適切にパソコンを利用していたかどうかを、試験後に確認することができる「Lime(ライム)」を開発した。

Limeでは、利用者がどのような文字を入力し、変換候補としてどのような漢字が表示され、最終的にどの漢字を選択したかを時系列でログとして保存する。

Limeを使ってWordに入力中の画面

Limeログサンプル

東京大学先端科学技術研究センター 講師の近藤武夫氏は、Limeを開発したからといって、すぐに大学がワープロ使用を認めるわけではないが、公平性担保を保証する1つのツールにはなるので、今後粘り強く交渉を行っていきたいと語った。

共同開発にあたっては、日本マイクロソフトでアクセシビリティ技術を担当するプログラムマネージャーと、Office IMEの開発を担当するエンジニアリングチームが技術協力を行っている。今後は、試験問題に出題される漢字をあらかじめ変換候補からはずすといった機能を追加する予定だという。

東大先端研と日本マイクロソフトは、これまでも障害のある学生のための大学・社会体験プログラム「DO-IT Japan」に協働で取り組んでおり、新しい活動として「学習における合理的配慮研究アライアンス(略称:RaRa, Research Alliance for Reasonable Accommodation)」をたちあげ、「Lime」の利用促進や、入試における配慮についての情報発信を行うという。

「Lime」は「DO-IT RaRa:学習における合理的配慮研究アライアンス」Webサイトより無償でダウンロードできる。