半導体デバイスの微細化が進み、すでに28nmプロセスでの量産が始まっている。微細化を担う半導体の微細加工技術は大別してリソグラフィ技術とドライエッチング技術から成っている。リソグラフィ技術は、解像度が光の波長とNA(レンズ開口数)で決まるため、比較的容易に理解できるのに対し、ドライエッチング技術はエッチング装置のチャンバ内で起こっている現象が複雑であり、理解を難しくしている。このため、ドライエッチング技術は、リソグラフィ技術に比べると注目度が低い。

しかしドライエッチングの技術者数はリソグラフィと同じくらい多い。技術的な重要性も高く、Si、SiO2、メタルなど、材料ごとに固有の装置とプロセス技術がある。そして、Cuデユアルダマシン配線加工や新材料加工など次々と新しい技術領域が生まれている。また、荷電粒子を扱うがゆえに起こるプラズマダメージはデバイスの歩留まりを落とす元凶であるため、そのメカニズムの解明と対策が常に必要であり、古くて新しい課題となっている。さらに今ホットな話題となっているダブルパターニングは、リソグラフィ以上にドライエッチングが重要となっている。

本書「はじめての半導体ドライエッチング技術」は、以上のような背景で高度化するドライエッチング技術について、これから従事しようとするエンジニアが十分な理解がえられるようにビギナー向けの教科書として執筆された。

筆者の野尻一男氏は、日立製作所で16年間ドライエッチングの先端技術開発、量産技術開発に従事してきた。また最近の10年はドライエッチング装置メーカーであるLam ResearchのCTOとして、プロセス開発のみならず装置開発にも携わっている。さらにドライエッチング技術に関する講演を数多く行っている。筆者のこれまでの経験を踏まえ、本書はドライエッチングの原理から、実践に近い知識までを網羅している。

従来のドライエッチングに関する書籍は、難しいプラズマ理論に重きをおいたもの、あるいは逆にドライエッチング技術のデータの羅列に終始するものが多かった。本書では独自のアプローチとして、プラズマの基礎から始め、数式や難しい理論を使わずに、ドライエッチングの反応過程、異方性エッチングのメカニズムを初心者にも理解できるように解説している。

また、ドライエッチングをプロセスから装置、新技術に至るまで系統的に理解できるよう配慮してある。Si、Poly-Si、SiO2、Alなど材料ごとのエッチングについての解説では、単なる各論にとどまらず、エッチングを支配するパラメータとその制御法についても述べている。例えばPoly-SiやAlのエッチングには、ICPやECRのような高密度プラズマが使われ、SiO2エッチングには中密度プラズマの狭電極エッチャが使われる理由についても解説している。エッチング装置については、CCP(Capacitively Coupled Plasma)、マグネトロンRIE(Magnetron Reactive Ion Etching)、ECR(Electron Cyclotron Resonance)、ICP(Inductively Coupled Plasma)といった各方式のプラズマの発生原理も含めて解説している他、ドライエッチング装置の中で重要な役割を果たす静電チャックについても言及している。

新技術については、Cuダマシンエッチング、Low-kエッチング、メタルゲート/High-kエッチング、FinFETエッチングなどの新しいエッチング技術について述べている。Cuダマシンエッチングでは各種方式についての説明した他、32nmプロセス以降で深刻化するLow-kダメージを防ぐための方式について解説している。ダブルパターニング技術や、16nmプロセス以降を見据えた3D ICエッチングなどの新分野についても解説している。

さらに、プラズマダメージの章を設けている。筆者はチャージアップダメージに関する先駆的研究を行い、その全容をほぼ明らかにした成果を中心に、系統的に全体像が理解できるようにまとめている。コンタミネーションや結晶欠陥などSi基板表面に導入されるダメージおよびチャージアップダメージについて解説した他、これらのダメージがデバイス特性に及ぼす影響について述べている。

半導体の微細化に伴い導入される新技術や新材料へ対応するため、ドライエッチングに課せられる要求はますます厳しくなり、プロセス開発の難易度は高くなっている。従来の経験と勘を頼りに実験を繰り返して、プロセス条件を求める方法は限界にきているという。

今後はプラズマの中身と反応機構を考察しながらプロセスを組み立てることが必要になる。ドライエッチングの反応機構はそのすべてが解明されている訳ではないが、本書で述べられているように、ガス種の選定にあたってイオンの化学的スパッタリング率や原子間の結合エネルギーを考慮するなど、いくつかの手掛かりとなる考え方や基礎データはある。ブラックボックスになりがちなチャンバの中で何が起こっているか、常に原理原則に立ち戻って考える態度が必要であり、本書はそのための一助となる。

初心者向けに書かれているが、ある程度経験を積んだエンジニアがドライエッチングの全体像を理解するのにも役立つ書籍となっている。

「現場の即戦力 はじめての半導体ドライエッチング技術」

発行 技術評論社
発売 2011年12月8日
著者 野尻一男
単行本 A5判/172ページ
定価 2,394円
出版社から 半導体ドライエッチング技術は、半導体デバイスの微細化・高集積化を実現する手段として、リソグラフィ技術と双璧をなすキーテクノロジーです。ドライエッチングに従事するエンジニアは、多くの場合、経験と堪に頼って仕事を進めているのが実情です。

本書はこれまでの本とは異なるユニークなアプローチで、ドライエッチング技術の基礎から応用までビギナーに理解できるようまとめてあります。これまでのドライエッチングの書は、ともすると難しいプラズマ理論に重きをおいたもの、あるいは逆にドライエッチング技術のデータの羅列に終始するものが多く見られます。本書は極力数式を使わないで、ビギナーにもドライエッチングのメカニズムが容易に理解できるように執筆しました。また、プロセスから、装置、新技術に至るまで系統的に理解できるよう配慮してあります。さらに、プラズマダメージの章を設け、その全容が理解できるようにしたことも特徴の一つです。

本書ではビギナーにドライエッチング技術の原理を容易に理解させるばかりでなく、より実践に近い知識が得られるようにしました。また、ビギナー向けに書かれていますが、ある程度経験を積んだエンジニアがドライエッチング技術の全体像を理解するのにも役立つ書籍です。