産業技術総合研究所(産総研) ナノチューブ応用研究センターの畠賢治 上席研究員 兼 スーパーグロースCNTチーム研究チーム長 、技術研究組合 単層CNT融合新材料研究開発機構(TASC)の阿多誠介 研究員らの研究チームは、高純度の単層カーボンナノチューブ(SWCNT)とピッチ系の炭素繊維(CF)をゴム中に分散させることで、金属チタンに匹敵する25W/mKの熱伝導率を持つSWCNT/CF/ゴム複合材料を開発したことを発表した。
集積化に伴うエレクトロニクスデバイスの温度上昇への対応として、金属製の放熱材料とデバイス(熱源)の間を埋める柔らかい高熱伝導性材料(TIM:Thermal Interface Material)の実用化に期待がかかっているが、アルミナや窒化アルミナといった熱伝導性フィラーを複合材料中に大量に添加した場合、材質が脆くなったり硬くなることによって、機械的な特性が低下するため、実用化への障害となっていた。
これに対し、熱伝導性フィラーとしてCFなどの炭素材料、特にピッチ系のCFは約1000W/mKという高い熱伝導率を持っており、複合材料の熱伝導性を増加させることが可能だとして適用に向けた研究が進められているが、CFは硬質で直線性の高い材料であるため、成形粘度の上昇や脆化や硬化、さらにTIM用途には最も重要な、面に垂直方向の熱伝導率が向上しないなどの課題があり、改善が求められていた。
すでに産総研でも粘弾性を持つCNTを開発しているが、同材料はスポンジ状で密着性に乏しく、熱伝導性が不十分であるため、TIM用途に対してはまったく新たな材料を開発する必要があり、今回、SWCNTと既存材料との融合化および実用化を推進するTASCと協力することで、熱伝導性に優れたゴム複合材料の開発が行われた。
CFとSWCNTは共に高い熱伝導性を持つが、構造はまったく異なる。CFは直径が10μmと太く直線性が高い一方、スーパーグロース法によって作製したSWCNT(SG-CNT)は直径が3nm程度であり(合成された際には配向した構造体)、比較的自由に曲げることができるという特徴がある。特にSG-CNTは長さ数mmにまで成長し、お互いに絡み合った嵩高い網目構造を形成できることが特長であり、今回はこれら炭素材料の特徴を生かして構造の制御を行った。
具体的には、まずSG-CNTを特殊な方法で分散し、長さを保ちながら網目状に広がったネットワーク構造を形成。これによりSWCNTは嵩高い状態になり、そうして分散したSWCNTにピッチ系のCFおよび母材であるゴム材料を加え、均一に分散させ成形することで、フィルム状の成形体を実現したという。なお、フィルムの厚さは100~2000μmの幅で調製できるという。
実験では、CFやSWCNTの組成をさまざまに変えながら試料を作製、熱拡散率、密度、熱容量を測定し、それらの結果から熱伝導率を決定したという。一例としてSWCNT(4重量%)とピッチ系のCF(18重量%)を含むフッ素ゴム複合材料の熱伝導性では、熱伝導率は面内方向で25W/mK、面に垂直方向で2W/mKを示した(フッ素ゴム単体の熱伝導率は0.2W/mK)。この熱伝導率はチタン(17W/mK)やクロム鋼(19W/mK)を上回るもので、アルミナ(29W/mK)にせまる値だという。比較用としてCFのみを20重量%入れた試料の熱伝導率は、面内方向では約5W/mK、面に垂直方向では0.2W/mKであるため、約5重量%のSWCNTを添加することによって熱伝導率を大幅に向上できることが確認されたほか、SWCNTの代わりとして多層CNT(MWCNT)を添加した場合では、熱伝導率は半分以下にまで低下することが確認されたという。
SWCNTを用いると高い熱伝導性が発現する要因として研究チームでは、構造観察などの結果より、CF間にかさ高いSWCNTネットワークが入り込むことによりCFの熱伝導を橋渡ししたためと推測されるとしている。また、SWCNTを加えた場合、CFが複合材料中に均一に分布しており、CNTの網目がCFの均一分散に寄与していることも確認されている。さらに、SWCNTは複合材料中に均一に分布するため、面に垂直方向の熱伝導の向上ももたらしたという。
今回開発された材料では、同様のスペックをもつ複合材料に比べて、熱伝導性添加材の分散量を従来の1/2から1/3に低く抑えることができることが確認され、材料の脆化や硬化の影響が小さく、母材が本来もつゴム物性を保つことに成功した。また、今回開発された熱伝導性ゴムは同様の熱伝導性をもつ材料に比べて密度が低いため、軽量化も期待されるという。
なお、研究チームでは、高純度SWCNTと熱伝導性CFやそれ以外の炭素材料・金属材料との複合化により、さらなるTIMの開発に努め、最終的に100W/mK以上の熱伝導率を持つ材料の開発を目指すとするほか、パートナー企業を募集することで、実用化につなげていきたいとの意欲を示している。