自然科学研究機構 分子科学研究所(IMS)の平本昌宏教授の研究グループは、これまでの研究成果の蓄積に基づき、単一の有機半導体としてフラーレン分子(C60)の単独薄膜中に、pnホモ接合を形成し、太陽電池として動作させることに成功したことを発表した。
有機太陽電池は、Siではなく有機半導体を用いて太陽電池を製造しようという技術。各所で研究が行われているがSi系などに比べて変換効率が低く、高性能化には有機半導体の物性物理を理解するための基礎科学的な研究の蓄積が求められていた。特に、セル性能を設計して望み通りに製造するためには、有機太陽電池の電圧を生み出す起源(内蔵電界)に関する、有機半導体物性物理学)バンドギャップサイエンス)の研究が不可欠となっていたが、なかなか進んでいなかった。
研究グループは、ドーピングによる有機半導体のpn制御に取り組み、2011年3月にフラーレン(C60)にモリブデン酸化物(MoO3)を共蒸着によりドープし、p型になることを示した。また、3つの異なる物質を同時に蒸着する三元蒸着において、コンピュータを用いて精密に制御すること、即ち、ゆっくりとした速度で蒸着する手法を確立し、蒸着膜の膜厚を正確に制御することが可能となり、ドーピング濃度を100万分の1レベルで自在に操ることができることを示していた。
フラーレンは、その分子軌道のエネルギーの特性から、電子を受け取る能力の大きいアクセプターであり、そのため、優れたn型有機半導体として、有機太陽電池に必ず用いられている。これをp型化するためには、モリブデン酸化物(MoO3)をドープし、今回の研究では、さらにn型化するためにカルシウム(Ca)をドープした)。
図1 フラーレン(C60)とドーパント(MoO3またはCa)の共蒸着(p型化に用いるドーパントMoO3とn型化に用いるドーパントCaは、工程を止めることなく連続して切り替えることができ、それらの濃度はコンピュータ制御でppmレベルで制御できる)。 |
このようにして得られた共蒸着膜について、n型とp型のフェルミレベルを調べた結果、MoO3をドープしたp型フラーレンではフェルミレベル(EF)は5.88eVとなり、Caドープしたフラーレンでは4.49eVとなった(なお、ドープしていないフラーレンは4.6eV) 。
ドーピングによってフェルミレベルを制御できれば、MoO3とp型C60(Agとn型C60)の、2つの電極の界面に、セルの抵抗を減らして高い性能を得るのに不可欠な、オーミック接合も作ることが可能となる。
図3 モリブデン酸化物(MoO3)がドープされたp型化されたフラーレン(C60)とカルシウムCaがドープされたn型化されたフラーレンのフェルミレベル測定の結果。フェルミレベルが上にあればn型、下にあればp型を意味する |
また研究グループでは、p型化に用いるドーパントMoO3とn型化に用いるドーパントCaを、蒸着工程の途中で連続して切り替え、実際に電池を作製した。
この電池のエネルギー構造は、フェルミレベルの差で電圧が示されることから、有機半導体としては新たな概念になるという。
さらに、同電池が実際にpn接合によって電流、電圧を発生しているのかどうかを確認するため、実際に光を照射した。
この結果、フラーレンC60の単独薄膜において、MoO3をドープしたp型とCaをドープしたn型の"pnホモ接合"の形成に成功したことが確認され、、1種類の有機半導体による有機薄膜太陽電池の作製に成功したことが実証された。
加えて、pnホモ接合の位置を自在に変えて作製することにも成功しており、これにより光起電力をもたらす活性領域は、pnホモ接合と共に移動することが確認できたという。これは、電池を自在に設計するために重要な技術を確立したことを意味すると研究グループでは説明している。
pn接合は半導体における基本的な接合方式で、今回の成果は、有機太陽電池でも、無機系太陽電池のpn接合、pin接合、タンデム接合などが、自由自在にエネルギー設計して製作できること示すものとなっている。また、従前の研究成果のように、流れる光電流を劇的に増加させることが知られているアルファセキチオフェン(6T)などの共蒸着膜に対して、同じpn制御のアプローチができることはすでに知られており、今後、さらに研究を進めることで、Si結晶系の太陽電池に匹敵する高効率の有機太陽電池の製造が可能になるとの考えを研究グループでは示している。