「はやぶさ試料の希ガスからわかった、イトカワ表層物質の太陽風および宇宙線照射の歴史」

東京大学の長尾敬介教授らは、40~60μmの微粒子3個に含まれる希ガスの濃度と同位体比を調べた。サンプルが極めて小さいため、通常の方法だと実験機材等から放出される希ガスの濃度も無視できなくなるが、レーザー加熱法と呼ばれる希ガス抽出法を改良し、新たに希ガス精製ラインも開発することで、サンプル以外からの希ガスの影響を低減することができた。

分析に用いたのはこの3個の微粒子。これを加熱して希ガスを抽出する

分析の結果、3個の微粒子全てから、ヘリウム、ネオン、アルゴンの3種類の希ガスを測定することができた(クリプトンとキセノンは検出されず)。これらは太陽の組成に似ており、微粒子がイトカワ表面において太陽風に曝されていたことを表している。ただし、加熱温度を上げていったときの希ガス放出の増減は微粒子ごとに異なっており、このことから微粒子はそれぞれイトカワ表面で潜ったり露出したりを繰り返していたことも分かった。

希ガスの放出量から、微粒子が潜ったり出たりしていたことまで分かる

また微粒子中の希ガスとしては、太陽風によるもののほかに、宇宙線の照射によって生成されるものもあるはずだ。この同位体濃度を測定すれば宇宙線に照射された期間が計算でき、月表面のレゴリスでは数億年という推定結果も出ているが、今回のイトカワの微粒子では、これが検出できなかった。このことは、3個の微粒子がイトカワ表面に数100万年以下という短期間しか存在しなかったことを意味している。

同位体比を見れば、希ガスの由来が分かる。宇宙線起源のものは検出されず

こういった分析結果から、イトカワでは100万年に数10cmの割合で表層物質が失われていると推定された。このペースで減少が続くと、なんと10億年後にはイトカワは無くなってしまうことになる。実際には、それよりも前に他天体に衝突する可能性が高いとも言われているが、いずれにしてもイトカワの寿命というのは、太陽系に比べると圧倒的に短いようだ。