「はやぶさサンプルの3次元構造: イトカワレゴリスの起源と進化」

大阪大学の土`山明教授らは、マイクロX線CT装置を使って微粒子40個の3次元構造を調べた。CTスキャンによって外形や内部構造は分かるが、従来は鉱物の特定はできなかった。しかし、エネルギーの異なる2種類のX線で撮影する手法を開発することで、鉱物の種類まで特定、各鉱物の3次元分布を得ることができた。

2種類のX線で撮影すると、少し違った見え方になる。これから鉱物も特定

鉱物の構成比を見ると、微粒子はやはり普通コンドライトのLL型に似ていることが分かった。これは他の分析手法による結論と同じである。

イトカワの微粒子の鉱物構成比は、普通コンドライトのLL型に近かった

天体表面の細かな粒子をレゴリスと呼ぶ。今回のサンプルはイトカワのレゴリスそのもので、人類が入手したレゴリスとしては月に次いで2天体目だが、重力が大きな月のレゴリスと、重力が小さいイトカワのレゴリスでは、その特徴に違いがあることが明らかになった。

レゴリスの形状には、角張ったものと丸みを帯びたものの2種類がある。隕石の衝突によって生成されたばかりのレゴリスは角張っていて、それが摩耗して徐々に丸くなると考えられているが、比べると月のレゴリスの方がより球に近い。これは、月面ではレゴリスが何億年も存在できるのに対し、重力の小さなイトカワでは衝撃で簡単に飛び出していってしまうからだという。

イトカワの微粒子にも、角張った形のものと丸い形のものがあった

レゴリスが丸くなるメカニズムについてだが、これは新たな隕石の衝突によって地震波の振動が起こり、それによって粒子が振動するためと考えられている。イトカワは「写真で見ると静的な印象だが、じつは表面はアクティブな活動をしている」(土`山教授)のだ。

「イトカワ塵粒子の表面に観察された初期宇宙風化」

茨城大学の野口高明教授らは、ダイヤモンドの刃で微粒子を薄くスライス(厚さは0.1μm)し、その断面を電子顕微鏡で調べた。

普通コンドライト隕石はS型小惑星が由来と考えられていたが、両者の反射スペクトルには違いがあった。同じ物質でできていれば、反射スペクトルも同じはず。月面のレゴリスの研究によって、宇宙風化と呼ばれる現象があることが知られており、これが原因で反射スペクトルが変化しているのではないかと推測はされていたが、実際にサンプルを得て調べてみないと確定はできなかった。

反射スペクトルを見ると、吸収帯の位置は似ているが、反射率に大きな違いがある

微粒子のスライスを調べてみたところ、表面から50nm程度の深さまでに、白く見える点が多数あることが分かった。分析の結果、これは鉄を含んだ超微粒子(大きさは数nmクラス)であり、この影響で反射スペクトルが変化していることが確認できた。

微粒子の断面の写真。表面から内側に、白い小さな斑点が見える(左)

さらに詳しく調べると、表面から15nm程度の最外層(領域I)と、その内側(領域II)では、宇宙風化のメカニズムが異なることが明らかになった。領域Iは、鉄・硫黄・マグネシウムに富んでいるが、カンラン石にはもともと硫黄が含まれないため、これは周囲の鉱物に太陽風が当たって蒸発した物質が付着したものと考えられる。領域IIでは、一部で結晶構造が壊れており、そこに金属鉄の超微粒子が形成されていた。これは、太陽放射線の作用が大きいようだ。

表面とその内側で、異なる仕組みによる宇宙風化が進行していた

この研究成果により、S型小惑星の反射スペクトルから本来のスペクトルを推定できるようになると期待される。「はやぶさ2」が向かう小惑星1999JU3はC型小惑星であり、S型小惑星とは表面物質が違うので宇宙風化のメカニズムも異なると考えられるが、今回の知見を活かして実験することにより、予めC型小惑星の宇宙風化を予測することも可能になりそうだ。