「はやぶさ計画によりイトカワから回収された小惑星物質の酸素同位体組成」
北海道大学の圦本尚義教授らは、微粒子28個について、酸素の同位体比を調べた。従来の分析手法だと「耳かき1杯くらいの量が必要だった」(圦本教授)が、今回はμmオーダーの微粒子しか使えないため、高速の原子をぶつけて表面から酸素原子を取り出すという新しい手法を開発した。
酸素には、酸素16、酸素17、酸素18という3つの同位体が存在する。この存在比は惑星ごとに違っており、「天体の指紋」であるとも言える。イトカワの微粒子を調べたところ、全て地球の比率とは異なっており、普通コンドライトのL型やLL型に近いことが分かった。酸素の同位体比からも、普通コンドライトの起源がS型小惑星であると証明できたわけだ。
また、各鉱物の同位体比のバラツキ具合から、加熱された温度も推定できるという。この方法から、加熱温度は650℃程度であったと見積もられており、前述のイトカワ形成史を裏付ける結果となった。
後継機「はやぶさ2」が向かう小惑星1999JU3は、有機物や水をより多く含んでいると考えられている。1999JU3からサンプルを持ち帰って調べることができれば、地球の水の起源解明に繋がる可能性もあるという。
「小惑星イトカワから回収された粒子の中性子放射化分析」
首都大学東京の海老原充教授らは、中性子放射化分析と呼ばれる手法によって、200μmクラスの大きな微粒子1個(3μg)を調べ、元素組成を明らかにした。
安定した原子核に中性子をぶつけて吸収させると、その原子は不安定な放射性同位体に変わる。それが安定した物質に変わるときに、原子核からガンマ線が放出されるが、このエネルギーは元素ごとに決まっているので、これを観測すれば元の原子が何であったのかが特定できる。ガンマ線の観測頻度からは、その量も分かる。これが中性子放射化分析である。
中性子もガンマ線もともに透過能力が非常に高いため、表面だけでなく微粒子全体の元素組成が分かるのがこの分析方法の特徴。今回の分析では、中性子を19時間照射した後、ガンマ線を1カ月半ほど観測し、ナトリウム、スカンジウム、クロム、鉄、コバルト、ニッケル、亜鉛、イリジウムといった8元素について含有量を求めることに成功した。
このうち、鉄/スカンジウム、ニッケル/コバルトの元素比から、この微粒子が地球外物質であり、コンドライト隕石に近いことが分かった。またイリジウムの存在量が、ニッケル・コバルトの含有量から予想される量の1/5しかなかったが、これは原始太陽系の初期の形成プロセスの痕跡だと考えられている。