国立天文台は、すばる望遠鏡の主焦点カメラが、「ステファンの5つ子(Stephan's Quintet)」と呼ばれる銀河群(HCG92)の星生成活動をとらえることに成功したと発表した。

今回の成果は、すばる望遠鏡の主焦点カメラ「Suprime-Cam」に備えられた、銀河などの中にある水素イオンの発する特殊な光(Hα輝線)を捕らえるための、特定波長範囲の光だけを通すフィルタを用いることで、異なった距離にあるのに偶然同じ方向に重なって見えている5つ子達の、それぞれの星生成活動を観測することで明らかとなったもの。

ステファンの5つ子は、5つ子と言われていても、実際には左下に見える1つの銀河(NGC7320)だけが地球の近くにあり後退速度がほぼ0の銀河(距離約5000万光年)で、残りの4つは後退速度が毎秒6,000km以上の、遠くにある銀河(距離約3億光年)であることが知られている。

ステファンの5つ子を構成する銀河たち。NGC7320は後退速度がほぼ0で、手前にある銀河。他の4つの銀河は3億光年離れて実際に密集している銀河。NGC7318A/BのまわりのHα輝線を放つ領域は、この2つの銀河とNGC7319の相互作用によって生まれた星生成領域と考えられている(提供:国立天文台)

今回、ステファンの5つ子をHαフィルタと青(B)、赤(R)色の光を透過するフィルタを用いて観測し、後退速度0に対応するフィルタによる画像(図2の左)と後退速度が毎秒約6,700kmに対応するHαフィルタを用いた画像(図2の右)を得た。

後退速度0に対応するHαフィルタを用いて得られたステファンの5つ子の擬似3色合成画像(左)と後退速度が毎秒約6,700kmに対応するHαフィルタを用いて得られた画像(右)(提供:国立天文台)

図2左の画像では、NGC7320の腕の中にある星生成領域から放たれるHα輝線がとらえられているが、他の銀河にはこれが見られないことが分かる。一方、図2右の画像では上側の3つの銀河の間にHα輝線を放つ領域が見られ、NGC7320ではほとんど構造が見えない。これは、遠くにある4つの銀河のうちの2つ(NGC7318AとNGC7318B)の衝突によって互いの銀河からガスが剥ぎとられ、さらにそこにもう1つの銀河(NGC7319)がぶつかってきて衝撃波を生じるとともに激しい星生成を誘起したものだと考えられ、この輝きはこの星生成で生まれた若い星によって、剥ぎとられた水素ガスが光っているものと考えられるという。