宇宙航空研究開発機構(JAXA)は8月19日、米国航空宇宙局(NASA)のジェット推進研究所(JPL:Jet Propulsion Laboratory)およびカリフォルニア大学アーバイン校(UCI)が複数の衛星の合成開口レーダ(SAR)画像を用いて南極大陸の氷の移動速度分布図を作成する取り組みに対し、陸域観測技術衛星「だいち(ALOS)」に搭載したフェーズドアレイ方式Lバンド合成開口レーダ(PALSAR:パルサー)で取得したデータを提供したことを発表した。

同取り組みでは「国際極年」である2007年~2009年を中心として、カナダ宇宙庁(CSA)、欧州宇宙機関(ESA)からも「Radarsat 1/2」、「Envisat-ASAR」、「ERS-1/2」のSARデータが提供されており、これにより、複数の衛星、複数時期(1996年~2009年)のデータを元に南極氷河の移動速度分布が南極大陸全体にわたり計測された。同成果は、JPLのEric Rignot博士による研究グループが作成したもので、8月18日(米国時間)に米科学誌「サイエンス」電子版に掲載された。

分布図の作成にあたっては、3000枚以上の衛星画像を使用しており、DEM(数値標高モデル)を用いて地上投影した後、海岸に沿って分布する不動点を用いて、速度を再校正した300m分解能の速度分布図となっている。東南極域では年に4~5m、氷河や棚氷(海に浮く氷)では年に250mペースの速度分布が見られ、これは内陸から南極の海岸へ巨大な氷河が海へと流れ込む速度を示している。中でもパインアイランド氷河(Pine Island)やスウェイツ氷河(Thwaites)は、最も早い移動速度を示している。

南極半島では全体に移動速度は速く、これが氷河が海へと溶け出し、氷河の崩壊につながっている。そのため、研究グループでは今回作成されたSAR衛星による南極の氷移動速度の計測は、南極の氷の移動に対する理解を深めるために役立つものと指摘している。

PALSAR、Radarsat-2、Envisatなどを使用して作成した南極の氷の移動速度分布図。((C)NASA Goddard Space Flight Center Scientific Visualization Studio)