がん細胞の中でも悪性度の高い集団「がん幹細胞」が、悪性化、抗がん剤治療への抵抗性に関係しており、その活性にがん細胞周囲の正常細胞が関与することが注目されている。北海道大学(北大)などによる研究グループは、通常はがん細胞排除に働く免疫細胞マクロファージが、がん幹細胞の働きにより逆に発がん活性能を獲得することを同定したほか、マクロファージから「MFG-E8」と「IL-6」と呼ぶ因子の産生を誘導することで、がん幹細胞のさらなる活性化が惹起され、抗がん剤への治療抵抗に繋がることを明らかにした。
同成果は、地主将久氏、千葉殖幹氏、吉山裕規氏(北大遺伝子病制御研究所・感染癌研究センター)、増富健吉氏(国立がん研究センター・癌幹細胞プロジェクト)、木下一郎氏、秋田弘俊氏(北大医学研究科・腫瘍内科学)、八木田秀雄氏(順天堂大学・免疫学)、高岡晃教氏(北大遺伝子病制御研究所・分子生体防御分野)、田原秀晃氏(東京大学医科学研究所・先端医療研究センター)らによるもので、米国アカデミー紀要(Proceedings National Academy of Sciences of United States of America)に掲載された。
正常幹細胞の代表格である造血幹細胞の維持、活性には骨、線維芽細胞など幹細胞の周囲を構成する細胞群との相互作用の重要性が指摘されていた。そこで研究グループは、がん細胞周囲に存在する正常細胞の機能に注目し、がん幹細胞と免疫細胞との相互作用についての検証を行った。
この結果、通常はがん細胞の排除に働くと考えられている免疫細胞のマクロファージが、がん幹細胞との相互作用を介して発がんを促進する機能を獲得することを発見した。その発がん活性に重要な役割を果たすのが、マクロファージから産生される「MFG-E8」と「IL-6」と呼ばれる分子で、これらはがん幹細胞に働くことで、その増殖活性や抗がん剤への抵抗能の誘導に重要な役割を果たすことを同定した。
今回の研究成果について研究グループは、がん幹細胞が本来腫瘍への拒絶能を有する免疫細胞機能を発がん促進の方向に転換することを明らかにしたことが、重要な意義を有すると考えられるとしている。
なお、研究グループでは、今後、がん幹細胞から特異的に産生され、免疫細胞の機能転換を引き起こす分子を同定し、その役割を検証することで、がん幹細胞と免疫細胞相互作用を標的とする新たなタイプの抗がん剤の開発が可能になると考えられるとしており、このタイプの抗がん剤は、既存の抗がん剤への感受性を高め再発予防につながる可能性を有するため、将来の制がんにおける有力な武器になる可能性があると指摘している。