完全無欠なエンターテインメントを求めて

――作品は、単純に楽しめるエンターテインメントとしても、成立していました。

三池「どうなんでしょうね。何かどこかで、果たせない夢として、『完全無欠なエンターテインメントってなんだろう、どんなものなんだろう』と追ってる部分はありますね。『どんな時でも、どんな世代でも楽しめる映画って何だろう』と思うことはあるんですが、『到底それは自分には無理だな』というのが大前提としてあります。その中で、今、僕らが何かを作ろうとすると、必ず出資サイドや配給サイドからの声で、無駄を切り落としていくんです。それは、『あってもなくてもいいシーンは、なくていい』という発想なんです。でも、そうなってくると、『映画なんかあってもなくてもいいんだから、映画そのものが切捨てられちゃうよ』という気もします」

――『十三人の刺客』の世界では、脇役は存在しないという印象がありました。

三池「最近の映画では、主役たちのために物語があって、主役を良く魅せるために脇役が存在するということが多いです。そうすると、脇役だけのシーンは、長くなるのでなくてもいいとなってくる。そういう意味では『十三人の刺客』は、主役がいないわけですよ。新左衛門は、刺客チームのリーダーですけど、この人は、善か悪かということからは切り離された存在で、殿も全く切り離された、"ある時代こういう人がいました"というだけの存在なんです」

――確かに、新左衛門も斉韶も、最近の映画では、主役として成立しにくいキャラクターですよね。

どの登場人物も、日本映画的な脇役としては描かれてはいない

三池「つまり、この物語では誰でも主人公になれる。たまたま今、このお話のなかでは新左衛門を通して、新左衛門の元に集まった人々が描かれるというだけなんです。でも、新左衛門の事を彼らが理解しているかというと、そうでもない。どんな暮らしをしてきて、この人はどういうふうに思っていたのかは、言葉では説明されません。ただ、感じる人には共感してもらえる部分もあって、なんだかわからないけれど集まった13人の人が彼について行って命を懸けるという、潔さを持った話として成立している部分も強いと思います。無駄に死んでいくとか、無駄な努力であるとか、そこに一生懸命向かう。死ぬかもしれないのに、本当はあんなところで馬乗ってる場合じゃないんですよね、みんな将来があるのに。それなのに、瞬間で周りの奴に負けたくないから行っちゃう。その感じがエンターテインメントとしてこの映画を成立させているのかもしれません」

――演じる役者たちからも、それは伝わってきますね。

三池「例えば山田孝之君なんかは、撮影中に死ぬかもしれないっていう落馬をしています。どの役者さんも、登場人物と同じように、みんな目的はあるんですけど、それを超えて演じているという感がありました。怪我したりしたら、役者生命を絶たれるかもしれないけど、それでもぶつかっていく……。必要以外のものを切り捨てていくという最近の傾向と、全てが逆行している作品だと思います。その辺りを、共鳴してもらえるというか、楽しんでもらえたという意味で、お客さんに恵まれた作品だと思います」

無駄な物の中にこそ、映画的な本質がある

――三池監督は、これからどのような作品を作っていきたいのでしょうか。

三池「『見易くなくてつまんないけど好きだよね』ていう映画が理想ですね(笑)。それなら媚びなくていいですし。それが遠い目的としてあるから、そこへ向かってみんな喘いでいると思うんですよ。自分自身の中でこれまでやってきて確信を得たのは、『無駄な物の中に、映画的というか、エンターテインメントの本質というのがあるのだろうな』という気がしています」

『十三人の刺客』
豪華版 DVD2枚組 6,090円、Blu-ray 豪華版 7,035円、Blu-ray 通常版 4,935円 DVD通常版 3,990円
5月27日発売(5月13日 DVDレンタル開始)
発売元 セディックインターナショナル・小学館 販売元 東宝

――三池監督の次の作品は子供向けアニメの実写化『忍たま乱太郎』で、最新作は3D時代劇『一命』です。監督は「題材も選ばない」と公言されていて、作風も固まらずに、監督としてずっと進化を続けているという印象があります。まだ、これから「こうなっていきたい」というような思いが、監督ご自身の中にはあるのでしょうか。

三池「『こうなりたい』とか、目的がハッキリし過ぎると、『自分とはこういうものだから』とか、『この予算ではできない』とか出てきてしまいます。でも、自分にはそういうのは関係ないんです。例えば、『500万か600万で作ってよ』って依頼が来ると、すぐやっちゃうんですよ。『500万しかない、仕方ないぞ』と言いつつ、暴れることができる。しかもそれが、『ラブストーリーなんですが……』とか言われたら、『やってみるか、やろうよ!』っていう気持ちになります。みんな映画監督っていうのは、『自分らしさ』とか『映画とはこういうあるべきだ』に捕らわれ過ぎています。でも、僕は、『ああ、そうなんだ、そんな芝居もあるんだ』とか、『違うと思うけどなあ、でもいいかも。本当にそう思ってんだ』ってやっていくのが僕なんですよね。そしたら、後は自由にできますから(笑)」

(C)2010「十三人の刺客」製作委員会

撮影:石井健