東北大学大学院 工学研究科 技術社会システム専攻の須川成利教授は4月5日、最高2000万コマ/秒の高速動画撮影が可能なCMOSイメージセンサを島津製作所と共同で開発したことを発表した。
自動車衝突実験やスポーツ科学などの分野で1000~1万コマ/秒の高速動画撮影が活用されているが、材料科学や生命科学、マイクロマシン技術の分野においては、各種材料や細胞の挙動、衝撃波や放電に伴う物理現象を解明するために、100万コマ/秒を超える超高速の撮影装置が必要とされている。
従来は、こうした撮影のために、記録コマ数分のイメージセンサを内蔵したカメラが用いられていたが、記録コマ数が少ないため研究者が現象を確実に捉えることが難しいうえ、装置が大型で使いにくいという問題があった。また、記録コマ数が100コマを超すイメージセンサを搭載した小型カメラも市販されているものの、撮影速度が最高100万コマ/秒程度に留まっていた。
イメージセンサによる動画撮影は、入射光によって生じた電荷(電子または正孔)を集めて、その量を電気信号に変換する画素と、多数の画素から電気信号を送り出す伝送線と、送られてきた電気信号を1コマずつ記録するメモリ、の3つの要素によって成り立っているが、撮影速度は、画素で電荷が集められる速さと、伝送線の本数と速さによって決まり、通常のイメージセンサではメモリが外部にあるために、伝送線の本数がセンサの出力端子の数で制約されてしまい、撮影速度を上げることができない。
今回の研究に用いられたイメージセンサはメモリを内蔵し、撮影中にそのメモリに記録した電気信号を、撮影後に外部に読み出す方法をとることにより、出力端子の数の制約を受けない高速の動画撮影を可能にした。
これまでにも同様の概念のCCDイメージセンサで100万コマ/秒程度の撮影速度を実現した例があったが、CCDイメージセンサは消費電力が大きいため、発熱の問題からそれ以上の高速化が困難であった。今回の研究では消費電力が少ないCMOSイメージセンサの特長を活かすとともに、伝送線における電気信号の劣化を最小限に抑える設計を行った結果、速度の向上を実現したのと同時に、画素内部の電界分布(電荷を動かす力の分布)を最適化することで、画素内の電荷が集められる時間を短縮した。これにより、従来のCCDイメージセンサに比べ20倍の高速化となる2000万コマ/秒の撮影速度を実現することに成功したという。
なお、研究チームは今後、今回の研究の成果をもとに超高速撮影装置の実用開発を進め、普及を目指すとしており、その結果として、さまざまな分野の超高速現象が解明されることとなり、例えば軽量で耐衝撃性の高い自動車・航空機素材や、材料の無駄が少ないレーザ加工、放電加工などの高精度な加工技術、さらにはエネルギー消費が少ないインクジェット印刷による電子回路製作技術の開発が促進されるものと期待されるとしているほか、情報通信などの分野で用いられるマイクロマシン部品の信頼性向上や、生命科学の基礎研究で利用されるレーザ細胞手術技術の改良にも役立つことが期待されるとしている。