ネットワールド マーケティング本部クラウド戦略室の大城由希子氏

仮想化にまつわるさまざまなノウハウ、事例、失敗談が披露されたクエスト・ソフトウェア主催の技術セミナー「クラウド/サーバ仮想化導入メリットを引き出す運用管理セミナー」。同セミナーのクリス・アカバー氏の講演では、仮想化導入を確実にコスト削減へと結びつけるためのポイントなどが紹介されたが、それに続いて登壇したVMwareのディストリビュータであるネットワールド マーケティング本部クラウド戦略室の大城由希子氏は、「VMware最前線 最新動向と今求められる環境」と題する講演を行い、仮想化環境の導入で期待できる効果や導入後に発生する課題への対処法などを解説した。

仮想化の拡大で企業側に新たなノウハウが蓄積

大城氏は、まず、仮想化の現状について、仮想化の対象がサーバからクライアントにまで拡大していると指摘し、従来のサイロ型のIT基盤を、標準化/最適化が施された「統合仮想IT基盤」に変革していくことで、経営力の向上につながるさまざまなメリットが期待できることを紹介した。

IT基盤を仮想化するメリットとしては、まず、物理ハードウェアへの依存がなくなり、必要なときに必要なリソースを瞬時に提供できるようになる点がある。これにより、システムのリードタイムが短縮され、システムの俊敏性、拡張性が高まる。次に挙げられるのが、投資対効果の向上。サイロ型のIT基盤では、システムや用途ごとに予算化と投資が必要になり、維持コストも増大してしまうが、仮想化により標準化された、無駄のない統合仮想IT基盤では、初期コスト、維持コスト共に、削減/抑制することができる。

これらは、サーバ仮想化のメリットとしてしばしば指摘されることだが、興味深いのは、仮想化への取り組みを進めるなかで、具体的に経営力の向上につなげるようなノウハウに発展させている企業の事例だ。大城氏によると、ある企業では、必要とされるSLAの視点で自社システムをカテゴライズし、それに対する運用コストを把握することで、IT基盤を今後「利用」するか「所有」するかの経営判断に役立てているという。

「自社のIT基盤に実際にどのくらいのコストがかかっているか。それを外部からサービスとして調達しようとするとどのくらいのコストがかかるか。そういったことを把握することはなかなか難しい。特にこれからクラウドを利用しようという企業は、そもそも"クラウドの価格"が高いのか安いのかを判断できずにいるケースが少なくない。そんななか、自社のIT基盤に標準化、自動化を施し、そのうえで運用SLAを定めて、それにかかるコストや運用レベルが把握できていれば、自社運用と他社運用のどちらがいいかの判断が早く、経営層にもわかりやすい説明ができる。」(同氏)

具体的には、運用SLAをTier1からTier3までの3段階に分け、例えば、Tier1では24時間×365日のサービス稼働時間、可用性としてFT/HA/DR構成が必須、パッチ適用やバックアップ/リカバリの要件などを条件とし、Tier3では9~17時までの稼働時間、HA構成なしを条件とするなどして、それぞれの運用コストを算出。それをベースに、セキュリティレベルやデータの機密性、レイテンシーなどの要件を考慮して、パブリッククラウドサービスを利用するか、プライベートクラウドに適用するかを判断していくという。

また、近年増えているのが、クライアント環境(アプリケーションやデータ)をサーバに集約し、サービスとして提供しようという動きだという。特にスマートフォンなどの導入事例が増えていることを受けて、いつでもどこでもどのような端末からでも業務ができる「エニーロケーション・エニークライアント」のニーズが高まっている。この場合でも、仮想化により、提供する環境やサービス、ユーザ特性によってカテゴライズした数パターンを、少ない工数で管理することで、運用コストを大きく削減しつつ、多様化するユーザーニーズへの即時かつ柔軟な対応とセキュリティ/コンプライアンス徹底の両立が図れるのが大きなメリットとなる。

仮想化の壁は、パフォーマンスと可用性

基幹系システムやデータベースなどは仮想化に向かないと思われるかもしれないが、大城氏によると、想像以上に仮想化できる範囲が広がってきたという。

「MS SQL ServerやOracle Databaseといったデータベース製品のほか、Citrix XenApp、SAPなどのアプリケーションもVMware環境での稼働実績が増えている。OracleのRAC(Real Application Clustor)は、VMwareによる仮想化のサポート対象外だったが、11gR2(Ver 11.2.0.2)以降はサポートリクエストを受け付けるようになった」(同氏)

同氏によると、こうしたさまざまな環境を仮想化するなかで"壁"と言われてきたのが、パフォーマンスと可用性だ。パフォーマンスについては、特に、ストレージの選択と設計を考慮する必要があるという。例えば、Lotus DominoのMailサーバなどI/Oが激しい仮想ディスクの利用はパフォーマンスのボトルネックになりやすいが、その際には、専用のLUNを設けるなどの工夫でカバーできるケースも少なくない。

また、VMware側でも、自動負荷分散機能「VMware DRS」、仮想マシンの自動拡張機能「Hot Add」やロードバランサーとの連携機能など、負荷により自動で、スケールアップ/スケールアウトできる機能も提供。運用やSLA確保をどんどん自動化できるのだ。VMware DRSでは、ホストアフェニティという移動ホストの制限機能により、データベース製品など、ホスト/CPU単位課金のアプリケーションが自動で多くのホスト間を移動する可能性から不必要にコストがかさむような事態を避けることもできるという。

可用性については、物理サーバ間を無停止で移動できる「VMware vMotion」や物理ストレージ間を無停止で移動できる「VMware Storage vMotion」機能などのほか、サイト間のディザスタリカバリ運用を自動化する「VMware vCenter Site Recovery Manager」を提供。さらに、物理ホスト障害時も別のホストでサービスを継続する「VMware FT」により、仮想化の"壁"に対応できるようにしているとする。

大城氏は「基幹系システムやストレージなど、仮想化の適用範囲はより広く、より深くが前提となっていく」とし、社内の統合仮想IT基盤をクラウド基盤として進展させていくことが必要との見通しを示した。