日本マイクロソフト Dynamicsビジネス本部 本部長 中西智行氏

日本マイクロソフトが、クラウド版のMicrosoft Dynamics CRM Onlineを1月18日に提供開始してから約2カ月、オンプレミス版のDynamics CRM 2011を2月17日に出荷してから約1カ月を経過した。同社のDynamicsビジネス本部 中西智行本部長は、「毎週、前週比50%増という勢いでトライアル版の利用が増えている。想定していた以上に利用していただいている」と好調ぶりを語る。「これからさらに認知度を高め、日本における存在感を増していきたい」と語る中西本部長と、同本部CRMソリューション推進部プロダクトマネージャの鞆井(ともい)明日香氏に、Dynamics CRM事業への取り組みについて、話を聞いた。

--Microsoft Dynamics CRM Onlineのサービス開始後の動きはどうですか。

中西氏: 振り返れば、今年はDynamicsを日本で展開してちょうど5年が経過します。2006年4月にビジネスソリューション事業統括本部を発足し、同年9月には日本で初めてDynamics CRM 3.0を出荷。2008年3月にはDynamics CRM 4.0をローンチし、今回、さらに進化を遂げた。これまではオンプレミスに限定していたこともあり、どうしても大手企業が中心となっていたこと、2000年前後のCRMブームにおける失敗をもう一度繰り返したくないという気持ちがユーザーにはあったことで、なかなか広がらなかったという反省がある。Dynamics CRMの認知度も決して高くはなかった。しかし、Dynamics CRM Onlineを発表してから、ユーザーの認識は大きく変化してきたといえます。CRMを導入したいというユーザーは潜在的に多く、それが導入の敷居が低いオンライン版であれば、踏み出しやすくなるという背景も見逃せません。

またここにきて、マイクロソフトのCRMに対する関心がさらに高まっています。グローバルでは1万5,000社への導入実績、2010年7月 - 12月の実績では前年同期比30%近い伸びとなっていますし、日本ではそれを上回る伸びを見せている。そこにオンライン版という新たな製品を提供することができ、さらに勢いが加速している。日本では毎週、前週比50%増の勢いで、オンライン版のトライアルが増えています。CRMといったときに、これまではセールスフォース・ドットコムがまず検討の土俵にあがり、Dynamics CRMはなかなか土俵にあがらない時代があった。それが大きく変化しはじめています。

--パートナーの意識変化はどうですか。

中西氏: マイクロソフトのビジネスは、パートナービジネスが100%です。Dynamics CRMのパートナーは、これまで約50社の体制でしたが、Dynamics CRM Onlineによって、少なくとも倍増するだろうと考えています。

すでにBPOSを展開しているパートナーは、メール、スケジューリング、グループウェアといった機能をユーザーに提供した上で、もうひとつ上のレイヤとしてCRMを提案したいと考えている。もちろん、CRMではコンサルティング要素も必要となってきますから、その点ではすべてのBPOSパートナーが、Dynamics CRM Onlineを取り扱える体制があるわけではありません。しかし、マイクロソフトは各種支援体制を整えており、これを活用していただくことで多くのパートナーに参加してほしいと考えています。提案のためのテンプレートなども用意していますし、教育体制もある。また、初年度は手数料支払いを40%にまで引き上げるキャンペーンも実施しており、これもパートナーにとって大きなメリットがある。パートナーの増加はこれからも続くと考えています。

--改めてお伺いしますが、Dynamics CRMの特徴はなんですか。

中西氏: Dynamics CRMならではの特徴はいくつかあります。

ひとつは、Outlookとの連携です。Outlookをクライアントに活用することで、予定表などとのデータ連携が可能になります。CRMやSFAでのスケジュール管理との二重入力を不要にしたり、Outlook上で社内のスケジュール管理と、利用者個人のプライベートスケジュールの管理を同期させて利用するといったことが可能になります。また、CRMの活用においては、対応履歴の「見える化」といった点でも効果がある。CTIと連動すれば、電話とメールの履歴を統合した形で管理することができる。これはユーザーがすでに利用しているマイクロソフト製品による既存資産と融合した形でCRMを活用できるという強みだといえます。Officeと同じ操作環境で利用できる点も、ユーザーにとって大きなベネフィットといえます。

また、クラウドでも、オンプレミスでも同じ環境でDynamics CRMを利用できる点は、マイクロソフトならではの特徴です。まずは1年間は初期費用が少ないクラウドで導入し、社内に仕組みを定着させて効果が出ると判断したら、中長期的な利用を視野に入れてオンプレミス環境に移行することも可能です。そして、最後に、フル機能を低料金で利用できるということはDynamics CRM Onlineにとって大きな武器です。もしセールスフォース・ドットコムと同じ機能を利用するのであれば、料金は3分の1で済みますし、また別の言い方をすれば、同じ料金ならば数多くの機能が利用できるようになる。価格メリットは大きな特徴だといえます。

--すでにDynamics CRM Onlineを利用しているユーザーも、こうした点に魅力を感じていると。

日本マイクロソフト Dynamicsビジネス本部 CRMソリューション推進部 プロダクトマネージャ 鞆井明日香氏

鞆井氏: ここで2つの事例をご紹介します。

ひとつは、三和コムテックの例です。同社はパートナーでもありますが、まずは自社のCRMをセールスフォース・ドットコムからDynamics CRM Onlineに移行しました。最大の理由はOutlookとの連携で、OutlookをプラットフォームとしてCRMにアクセスできる環境を作れることや、顧客とのメールのやりとりをOutlookに取り込むことができるを評価しています。セールスフォース・ドットコムでは別途CRMを立ち上げて利用するためにどうしても手間がかかっていましたが、これがなくなったことで利便性が大きく高まったとしています。さらにDynamics CRM Onlineならではのストレージ容量の大きさも決定要素のひとつでした。約1カ月半で移行を完了し、コストは約3分の2程度に削減しています。三和コムテックでは、この経験を生かして他のセールスフォース・ドットコムユーザーにもDynamics CRM Onlineへの移行支援サービスを提供していく考えです。

また、バリューエンジンも、同様に自社システムをセールスフォース・ドットコムからDynamics CRM Onlineに移行したパートナーの1社で、BPOSパートナーとして展開していたものを、今後は、Dynamics CRM Onlineにまで範囲を広げることになります。同社では自社利用では、費用を抑えるために一部ユーザーではアカウントを共有して利用していたのですが、Dynamics CRM Onlineではこの状況を改善できたこと、さらに各エンティティ間のリレーション確立に制約がないため、カスタマイズが柔軟にできるといった点を評価してもらっています。

中西氏: エンタープライズから10数人規模の中小企業まで、また幅広いユーザーから評価を得ています。文教市場においては、卒業生の管理のためのパッケージソリューションがページワンというパートナーから用意され、これが全国のパートナーを通じて提供されるなど、業種別パッケージソリューションの展開もはじまっていますが、特定業種で先行しているというわけではなく、幅広い業種で導入されているのが特徴です。プロスポーツのファンサービスのためにもDynamics CRM Onlineが利用されはじめています。ただ、いま先行している活用事例をみると、すでにCRMとはなにか、どこに問題があるのかということを知っているユーザーが多いといえるようです。

--つまり、セールスフォース・ドットコムのユーザーからの移行が多いと。

中西氏: いま利用しているCRMに対する不満を、Dynamics CRM Onlineであれば解決できる、そしてコストダウンもできるという点が、ご検討をいただいている例が多いのは事実です。

鞆井氏: もうひとつ、2011年6月末までの期間限定で、導入・移行キャンペーンを実施している点も、移行が多い理由だといえます。導入キャンペーンでは、月額1ユーザーが4,660円のところを、3,601円で提供していますし、移行キャンペーンでは、セースルフォース・ドットコムやシーベルといった他社製品を利用しているユーザーが移行する場合には、1ユーザーあたり2万円のキャッシュバックを行うものとなっています。

たとえば、現在、月額7,500円の他社クラウドCRMを15ユーザーで利用している場合、2つのキャンペーンを利用すれば、年間で70万1,820円の費用削減が可能になり、さらに31万5,000円のキャッシュバックをあわせて、101万6,820円の削減が可能になります。また、1万5,000円の月額を支払い、250ユーザーで利用しているユーザーの場合には、ほぼ同じ機能を利用しながら、初年度だけで3,944万7,000円もの費用が削減できる計算になります。まずは30日間の無料トライアルによって、Dynamics CRM Onlineの良さを体験していただき、さらにこのキャンペーンを活用してコスト削減にも活用していただきたい。

--今後はどんな活動を計画していますか。

中西氏: 2011年6月までは準備期間と捉え、なるべく多くの方々に無料トライアルを体験していただきたい。トライアルへの参加数は、アジア太平洋地域のなかでは、日本が最も多い数になっています。非常に高い目標ではありますが、ぜひ1万社の方々にDynamics CRM Onlineのトライアルを利用していただきたい。4桁の数字が具体的な目標とはいえますが、あえて1万社という数字を掲げるのは、1社でも多く利用していただきたいという思いからなんです。そして、大規模な事例もご紹介できるようにしたい。また、多くのパートナーにもこのビジネスに参加していただきたいと考えています。マイクロソフトは、7月から新年度に入りますが、そこからはグッと事業を伸ばしたい。それを表現するには、「飛躍」という言葉が適切だと思っています。過去5年間でDynamics CRMは、地道に事業を拡大してきた。その努力がオンライン版という波によって、一気に成果になろうとしている時期です。まずは、オンライン版で事業を加速し、この勢いをオンプレミス版のビジネスにもつなげていきたいと考えています。