三菱電機は2月16日、研究開発成果披露会を開催した。同成果披露会は、同社グループの最新の研究開発成果を紹介する場として例年開催しており、今回は「環境・エネルギー」「映像」「通信」「ものづくり」「先進技術」の5分野18件について発表・展示を行った。
同社では、世界的な環境志向の高まりや、中国をはじめとするアジアの高い経済成長、新興国を中心とした社会インフラ整備の加速などを事業機会の拡大と捉えており、成長戦略として環境エネルギーおよび社会インフラを中心に今後も研究開発を進めて行く方針。
同社執行役社長の山西健一郎氏は「中期的にはパワー半導体およびパワーエレクトロニクス、スマートグリッド、高効率の自動車機器、太陽光発電システムなどを中心に開発を進めて行きたい」と今後の展望を語った。今回の披露会でも18件中11件の展示が成長戦略と位置付ける環境・エネルギー分野となっていた。
以下では初公開の開発成果の中からスマートグリッド、パワー半導体、液晶テレビ、産業用コントローラーの新技術を紹介する。
スマートグリッド向け無線メッシュネットワーク技術
環境・エネルギー分野では、スマートグリッドについて、2010年5月に実証実験を開始した。太陽電池などの再生可能エネルギーが太陽に導入された時でも高い信頼性で電力供給を維持するスマートグリッド技術の早期確立と製品化を目指している。
今回は、スマートメーターによる自動検針で必須の通信技術である大規模な無線メッシュネットワーク技術を開発した。無線メッシュネットワークは複数の端末を相互に網目状に連携させてデータを通信する。電力検針に応用する場合、各家庭で検針したデータがコンセントレーターに集まるが、メーター数が多い場合、データの衝突が起こり、ネットワークの性能を劣化させる。このため、同社ではコンセントレーター主導タイミング制御方式を開発した。コンセントレーターが交通整理を行い、各端末の送信タイミングを巧みに操作し、衝突を回避することでネットワークのスループットを改善する。従来では50台程度しか使用できなかったメーター数を10倍の500台まで対応できる。950MHz帯のスマートメーターで500台の実証は業界初という。
今後は電力検針の実用化技術として、「エネルギーの見える化」の観点から公共施設などへの導入を提案する。
フルSiC IPMによりデバイス特性を有効活用
パワーデバイスについては、低損失化と適用機器の小型・軽量化を狙ったSiCデバイスの開発を進めている。すでにSiCダイオードを適用したハイブリッド化で、ルームエアコンを皮切りに製品展開を進めている。さらにSiCトランジスタの開発によりフルSiC化し、太陽光発電用のパワーコンディショナに搭載するパワーモジュールを開発している。今回の開発成果としては、トランジスタとダイオードだけでなく、駆動回路、保護回路までを一体化したフルSiCのIPM(Intelligent Power Module)を実現した。
フルSiC IPMの実現に際して、電流センス機能を搭載したSiC-MOSFETを開発した。センス機能付きMOSFETにより、実際の電流の一部を分流させることで電流を検出する。同機能により、低損失なデバイスの短絡保護を確実に行うことで、デバイス特性をより有効に活用できるようになる。
従来のSi IPMに比べ、インバータ損失を70%、容積を50%削減している。今後はSiC IPMの製品化、および産業機器など搭載製品の実用化を目指す。
赤色レーザーにより液晶テレビの色再現範囲を拡大
映像分野では、レーザーバックライト液晶テレビを開発した。
液晶テレビの高画質化に向けて、従来の白色LEDバックライト搭載テレビの課題は赤色の純度が低いことにある。今回の開発では、人の目の識別能力が高い赤を鮮やかにするため赤色レーザーを導入し、残りの青と緑については混合色であるシアン色LEDで対応する。純度の高い赤色が光源に含まれることで、色再現範囲を従来比1.3倍に拡大する。
なお、赤色レーザーの波長は638nmとなっている、DVDプレーヤーなどで用いられる650nmの波長では黒っぽい赤になるため、すでに製品化されているディスプレイ用のレーザー製品の波長に合わせたという。
同社ではハイエンド用の液晶テレビとして製品展開を図る方針。
仮想化技術を産業用コントローラーに適用
ものづくり分野では、制御用ソフトウェア資産継承型コントローラー基盤技術を開発した。
ファクトリーオートメーションあるいはプロセスオートメーションなどで用いる産業用コントローラに仮想化技術を適用し、1つのコントローラ上で複数の制御ソフトウェアを実行するもの。産業用コントローラのハードウェア更新・統合時に、従来のコントローラで用いているソフトウェアをそのまま新しいコントローラで動かすと共に、複数のコントローラを1つのハードウェアに集約することで開発コストを削減する。これにより最新のハードウェアの性能と過去のソフトウェア資産を活用しながら工場のラインの移設・新設に貢献できるという。
仮想化技術の適用に当たっては、リアルタイム連携通信と組み込みリアルタイムVMを開発した。産業用コントローラはリアルタイムで動かなければならないため、制御ソフトウェアの処理を一定時間内で完了するための仮想化技術を開発した。また、コントローラを集約しているため、コントローラ間を跨いで制御ソフトウェアをリアルタイムに連携する高速応答を実現している。