名古屋大学(名大)の大野雄高准教授らとフィンランド・アールト大学のエスコ・カウピネン教授らは新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の産業技術研究助成事業の一環として、プラスチック基板上にカーボンナノチューブ(CNT)集積回路を実現する技術を開発。CNTを用いた順序論理回路を実現したことを発表した。2月6日(英国時間)に英国の科学雑誌「nature nanotechnology」(電子版)に掲載された。
フレキシブルエレクトロニクスの実現に向け、従来の硬いシリコン基板に代わって、プラスチック素材の上に、高速かつ安価に高性能な集積回路を実現する技術の開発が進められており、これまでもさまざまな半導体材料を用いて柔軟なTFTが実現されてきたが、SiやZnOなどの半導体材料の場合、真空プロセスや加熱処理、複雑な転写プロセスなどが必要で、安価な印刷技術を転用して製造するということはできなかった。
一方、近年、開発が進んでいる有機半導体材料の場合、現状では移動度が低く、化学的安定性に課題があることから、最近、高い移動度や化学的安定性が期待されるCNTを用いたTFTが注目されていた。しかし、CNTを用いたTFTは簡単な溶液プロセスで実現できるものの、分散工程によりナノチューブ薄膜の電気特性が劣化し、期待される性能は得られていなかった。
今回、研究グループでは、簡単で高速な成膜方法として「気相ろ過・転写法」を考案した。従来、CNT薄膜を成膜する方法として、すす状のCNTを分散剤により液体に分散し、塗布する方法(溶液法)が用いられてきた。しかし、溶液法では、均一なCNT薄膜を形成することが難しく、また、分散剤を完全に除去する技術はないという課題があった。これに対し、気相ろ過・転写法では、CNTを大気圧の化学気相成長法により連続的に成長させ、フィルタによりろ過・収集した後、基板に転写するという簡単な方法により、均一で清浄なCNT薄膜を実現することが可能となる。また、CNT薄膜の堆積時間は数秒で済み、ロール・ツー・ロール方式に展開することも可能となっている。
加えて従来の溶液プロセスでは、強力な超音波を用いてCNTを分散させるためCNTは短尺化するほか、残留分散剤によりCNT間の接触抵抗が高く、得られるTFTの移動度は1cm2/Vs前後であった。また、残留分散剤によるドーピング効果のため、オン/オフ比も104~105程度であったが、気相ろ過・転写法では、成長した状態の長尺かつ清浄なCNTを薄膜化できることから、移動度35cm2/Vsを実現した。
さらに、ナノチューブの密度を精密に制御し、オン/オフ比6×106も同時に実現しており、このTFTの性能は、従来のCNTや有機半導体、非晶質シリコンの場合と比較しても高く、真空・高温プロセスが必要なZnOや低温多結晶シリコン(LTPS:Low-Temperature Poly Silicon)と同程度を実現した。
今回、開発された技術は、任意の基板材料に高性能なCNT薄膜を形成することができるものであり、研究グループでは、プラスチック基板上にCNT-TFTを集積化し、リング発振器やフリップ・フロップなどの集積回路の動作を行った。この結果、論理ゲートあたりの遅延時間は12μsの高速動作を実現した。なお、今回作製したフリップ・フロップは、世界で初めてCNTを用いて実現した順序論理回路になるという。