RFに特化した技術開発、特に超低消費電力による無線通信に注力しシェアを伸ばしてきたノルウェーNordic Semiconductor。同社のデバイスは無線のキーボード/マウスでは必ずと言って良いほど用いられており、また、近年はスポーツやヘルスケア分野でも活用が進められようとしている。

RFに特化することで、成長を果たしてきたファブレスベンダのこれまでと未来へ向けた展望について、同社Asia Pacific部門のDirector Sales&MarketingであるStale"Steel"Ytterdal氏に話を聞いた。

左がNordic Semiconductorの日本のカントリー・マネージャーの山崎光男氏、右が同Asia Pacific部門のDirector Sales&MarketingであるStale"Steel"Ytterdal氏

2.4GHz帯のデジタルワイヤレス技術に注力

Nordic Semiconductorは1983年に設立されらファブレス企業で、1998年に超低消費電力のワイヤレス分野に注力することを決定、2002年には180nmプロセスを用いた2.4GHz帯のRF製品を開発、2004年よりLogicoolのワイヤレスマウスに採用されたのをきっかけに、市場を拡大してきた。

超低消費電力を維持しながらRF性能の向上を実現することを目的とした会社というだけあって、全世界に120名の社員がいるが、その内80名がRF関連の研究開発を行うエンジニアだという。

ファブレスのため、前工程はTSMCが、後工程はASEやAmkorが担当しているが、「製品のリードタイムが重要であり、テスト時間の短縮も含め、そうしたアセンブリメーカーに間借りする形で自社で用意したRF専用テスタを設置、5人のスタッフが専任で作業を行うことで、リードタイムの変化を抑えている」(同)という。

現在、同社のデバイスの生産量は月産で1,500万個。「2002年からここまでやってきたが、ダブルブッキングを出さずに、在庫管理を常に行い、余分な在庫を持たずにタイトな状況を維持してきた」と、2008年後半からのいわゆるリーマンショックによる需要減退期などにおいても、柔軟な対応で乗り越えてきたことを強調する。

4つの市場に3つの製品を投入

同社が注力しているビジネスセグメントは大きく4つ。1つ目が最大市場である「PC周辺」。いわゆるワイヤレスキーボード/マウスの市場だ。2つ目が「スポーツ/ヘルスケア」で、ランニングシューズに入れたり、BAN(Body area network)による疾患監視などでの活用が進められている。そして3つ目が「オーディオ」、4つ目が「おもちゃ」となっている。

現在、同社が提供している製品は主に3ファミリ存在している。1つ目が独自方式を採用した2.4GHz ISM帯向け1チップRFコントローラ「ULPP(Ultra Low Power Proprietary)」。これは、カスタマに応じて個別のプロトコルスタックを活用するデバイスで、1チップ上にRF、マイコン、メモリを搭載していることが特徴だ。マイコンは8051コンパチで、メモリにはOTPを活用することでコストダウンを実現している。

主力3ファミリの概要

また、低消費電力性として、ディープスリープ状態から8msで立ち上がり、2Mbpsの通信速度でデータのやり取りを行った後、即座にディープスリープへと戻ることが可能な技術を搭載している。「これにより1つのボタン電池で1日200回押した場合でも、20年間は駆動するリモコンを実現できる」という。

「ULPP」デバイスの概要

2つ目がバッテリー駆動の複数の機器同士のオペレーション向けに最適化が図られたプロトコル「ANT」を活用したソリューション。

こちらの特徴はBluetoothやZigBeeに比べ軽量だということ。ホストスタックは2KB未満で、ボタン電池の4ノードを約30時間で設計することが可能だという。

「ANT」の概要

また、各ベンダ間でネットワークアクセスをシェアし、相互接続を実現することを目的とした「ANT+ Alliance」を結成しており、これにより、異なる機器ベンダでもANT+を共通語とすることでマルチプラットフォームを構築することが可能となることから、「多くのBtoBリレーションによるスポーツ、ヘルス分野でのメーカー間の協力が促進されることとなる」と説明。2010年5月中旬の時点で250社以上が参加を表明しているという。

そして3つ目がBluetooth Low Energyソリューション「μBlue」で、低消費電力型のBluetooth規格「Bluetooth Low Energy(LE)」のプロトコルに準拠したものとなる。

μBlueはULPPと似たような分野での適用が想定されるが、これについてSteel氏は、「Bluetoothと一言に言っても、ヘッドフォンなどのPCなどの機器との接続を前提とした従来型の使い方や携帯電話に搭載して3Gなどのネットワークと併用する形などがある。しかし、我々が狙っているのはスタンドアロンで、身に付けて活用するような機器だ。そうした分野ではパフォーマンス以上に低消費電力性能が求められる。我々はANTでもBluetoothでも、自社のRF技術を市場が要求するインタフェースに合わせて用意するだけであり、それがたまたまBluetooth LEだっただけ」と、自社の有する低消費電力RF技術が適用できる市場であれば、インタフェースそのものには拘りはなく、最適と思われるインタフェースを採用した製品を提供する姿勢を示す。

「μBlue」の概要

「我々の武器は技術力。低消費電力を強調したが、それに加えて2Mbpsの通信速度を同時に実現していることが特徴。普通のBluetoothはリンクが非常に面倒な仕組みになっている。我々の技術を用いれば機器同士のリンクを一瞬で行うことが可能だ。今後、こうした技術をコンシューマ用途へと拡大していきたいと考えており、例えばリモコンに活用できると感じている。すでにZigBee RF4CEなどによるIR(赤外線)からRFへの置き換えに向けた動きが出ているが、彼らのやり方は、既存のリモコンの置き換えで、従来のIR式のものでも十分適用できていることしかやっていない。しかし、インターネットTVなどが本格化すれば、今の日本のデジタルTVでもそうだが、ボタンが多すぎて、何を押せば何ができるのか、消費者が分からなくなってくる。感覚としては、PCと同じようなインプット方式を求めているはずだと感じている。これは機器の高性能化が進み、TVがクラウド化すれば、より顕著になるだろうし、そうなればやはり人々は新たなナビゲーションが可能なコントローラを欲することになるはずだ。その時、我々の技術はきっと必用とされることになると信じている」。

なお、同社はCES 2010でキーボード、マウス、リモコンを1つに集約したデバイスを披露している。Wi-Fiではノイズの影響を受けやすいということで、やはり自社のRF技術を活用したものだが、こうした新たなナビゲーション機能を持たせた端末を紹介していくことで、自社のRF技術を広く活用していってもらうことをアピールしていくとしている。