全3回に渡り、仏ノール・パドカレ地方のデジタルクリエイター事情を紹介していく本レポート。3回目となる今回は、オフィスを訪問取材してきたノール・パドカレ地方のデジタル制作会社を、3つ紹介しよう。どの会社も、世界規模の作品展開をしているのが特徴的だ。古い街並みのなかにオフィスを構えて、広い視野で仕事をしている印象を受けた。
過去掲載分
第1回『フランスのクリエイターがいまなぜ「北」に集結?』
第2回『北フランスを支える様々なデジタルカンパニー』
世界展開するTVアニメを世界規模で制作
PLANET NEMO(プラネット・ニモ)
リールにあるIT拠点「ユーラテクノロジー」で、3~10才に向けたアニメ作品の企画・制作・販売を手がけるスタジオ。パリとロンドンに販売オフィス、上海に人材コーディネート用のオフィスを構える。アニメ作品の多くは世界各国でテレビ放映されており、この1月からはNHK総合・教育で短編シリーズ「マノン」が放映中。また現在、日本のアニメ制作会社と共同で、日本向けアニメ作品を制作中だそうだ。さらに2011年完成予定という、80分のアニメ映画を中国で制作中。
少数精鋭のTVゲームスタジオ
hydravision(イドラビジョン)
1999年に設立されたゲーム制作会社。3DCGによるアクションアドベンチャー、サバイバルホラーが得意で、フランスで特に人気のあるパーティゲームも手がける。代表作は「OBSCURE」「ALONE IN THE DARK」(Atari)など。45人のスタッフで、DS、Wii、Xbox 360、PS2、PS3、PSP向けのゲームを制作している。外注はせず、1つのゲームを8人チームで作っているそうだ。スタッフの半数が、SUPINFOCOMグループの卒業生。16台のモーションキャプチャーカメラを備えたスタジオを自社に持っている。
TVアニメもゲームもFlashで開発!?
仏No.1のMMORPGが日本上陸間近
ANKAMA(アンカマ)
最後に訪れたのが、この地域で最大のデジタル映像企業、ANKAMAだ。リール近郊を本拠に、パリや東京にもオフィスを構えている。訪問したリールのオフィスは、かつての紡績工場をリノベーションした巨大な煉瓦造りの建物で、400人が働いていた。 ANKAMAは、もともと2001年に3人で設立されたWeb制作会社。2004年にβバージョンをリリースしたMMORPG(多人数同時参加型オンラインRPG)である「Dofus(ドフス)」がヒット。現在では2,500万人のユーザーを抱え(ヨーロッパで1、2を争う人気)、さらに続編の「Wakfu(ワクフ)」とともにTVアニメ、コミック(仏で累計第3位の売上)などを展開している。日本アニメで育ったクリエイターによるビジュアルは、まるで日本の萌えアニメのようなスタイルで、そのすべてが自社制作というから驚きだ。しかも、ANKAMAのMMORPGやアニメのほとんどは、Flashを中心に制作されている。ゲーム制作チームとTVアニメ制作チームの間で、Flashのベクターデータを流用しているそうだ。 3月には、MMORPG「Dofus」の日本語版が公開された。日本アニメが育てたクリエイターの手によって凱旋帰国した、フランス生まれの日本テイストゲームだ。
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Dofus 2.0のビジュアル。日本から影響を受けた「萌え」グラフィックがかなり特徴的だ |
ゲームもFlashベース。MMORPGはC言語で開発されることが多いが、もともとWeb制作会社なこともあって、Flashのほうが開発しやすかったようだ |
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TVアニメは手描きの原画をFlashでベクター化して仕上げる。写真の原画マンは日本人の坂野方子さん。2年前まで「ゲド戦記」などの動画も描いていたそうだ |
400人といえども広大なオフィスなので、各人のデスクはゆったり。しかもおしゃれ |
(執筆:Web Designing編集部 Web Designing 2010年2月号掲載)