2010年2月7日から12日にかけて行われた経済産業省宇宙産業室が企画したアフリカ貿易会議という訪問団に参加する機会を得て、エジプトと南アフリカへ行ってきた。ここではエジプトの宇宙開発の状況を、「ビジネスチャンスはあるか」という視点で紹介したい。

エジプトといえば、ピラミッド。はるか昔にこのような高等技術をもっていた国の21世紀の宇宙技術はいかなるものなのか。そして、宇宙技術を使って何をしたいと考えているのだろうか。

ピラミッドの夕日

エジプトの科学技術予算は年間約400億円

経産省ミッションとは別に2カ所を非公式に訪問し、3カ所を日本の旗を背負って訪問してきた。最初は、TRANSTECHNOというエンジニアリング会社。それからカイロ大学の航空宇宙学科。公式訪問の前に現地の生の声を聞いておきたかった。エジプトの大学が宇宙工学教育で直面している問題は2つあって、1つは打ち上げ手段がないこと、もう1つはコンポーネントを入手できないこと。いずれも、お金がふんだんにあれば解決することだが、エジプトの年間科学技術予算が全部で400億円くらいということなので、宇宙開発の予算、ましてや大学に流れてくる予算を考えると、確かに難しそうである。しかしながら、難しいところには必ずチャンスがある。これをどうビジネスに結び付けられるのかは知恵の絞りどころだ。

カイロ大学にて教授陣と

エジプトではイスラム教の関係で、金曜日がお休みで、日曜日は普通の日である。そういうわけで2月7日は日曜日であったが、15人の公式訪問団は活動を開始した。この訪問団には、いわゆる日本の代表的宇宙企業といわれる企業が参加しているわけだが、メンバーの共通点はタフなこと。「METI(経産省)スケジュール」と呼ばれる、ツアーとしてはまず売れないような強行軍にも笑って耐えるメンバーは、誰一人体調をくずすこともなく全行程を精力的にこなした。

次世代の小型観測衛星の国際入札を計画中

2010年2月7日。まずはNARSS(National Authority for Remote Sensing and Space Sciences)本部と郊外にある運用センターの両方を訪問した。エジプトでは、小型観測衛星を自前で製造運用できるようになることを目指しており、2007年にエジプトサット1を打ち上げ、現在運用中。ちょうど、その次のエジプトサット2の入札をすることになっていて、日本も参加してほしいとのこと。

エジプトサット2は2.5mの地上分解能を目指しているそうだから技術的には日本企業は十分いけるが、値段が折り合うかどうかが問題だろう。エジプトサット1はウクライナの技術支援を受けたが、国際入札で価格的・技術的に勘案しての結果だという。ウクライナにエジプトの技術者60名を送り込んで、いっしょに作ったし、エンジニアリングモデルはNARSSにあって、シミュレーションなどに使われている。とはいうものの、エジプトサット2を作るにあたって、また国際入札に出さないといけないということは、自国で作る力がついていないということである。彼らとしては、今度こそは自国で作れるようになりたいと思っており、それに協力してくれるところを探しているという印象を受けた。

このクラスの衛星だと10~15億円で出してくる国がありそうだから、日本企業が損をしないようにしたいと思えば、たぶん価格では勝てない。先方が欲しがっているトレーニングプログラムのようなものをおまけにつけるか、あるいは衛星とレアメタル採掘権などの「隠れバーター貿易」を考えるなど、何か知恵をひねり出す必要がありそうだ。

NARSSの方々と訪問団一行(写真提供:伊地智幸一氏)

エジプトサット1のモックアップと経産省宇宙産業室長の金子修一氏

一歩先に進んでいる欧州勢

翌2月8日はエジプトの科学研究省とNilesatの2カ所を訪問。エジプトは、科学技術の重点分野として、エネルギー(代替エネルギーが主)、水、食料・農業、医療、宇宙・リモートセンシング、IT、社会科学・人文の7分野を設定している。つまり、宇宙は7重点分野の1つとして認められているのである。科学研究省では、副大臣をはじめ、11名の方々が出席され、エジプトサット2の入札の参加打診や超小型衛星の共同事業、超小型衛星シンポジウムのホストをしてもよいなど、終始積極的な態度を示された。

科学研究省でのミーティング風景

科学研究省副大臣(Prof. Maged Al Sherbiny)と日本側団長(石井潔氏、IHIエアロスペース社長)

午後からNilesatへ。砂漠の中に忽然と現れた現代の宮殿のような印象を受ける。大きなアンテナがたくさん立っていて、建物は近代的かつ豪華。Nilesatはいわゆる衛星会社で、日本でいえばスカパーJSATのようなことをやっている。これまで打ち上げた衛星やロケットはいずれも欧州製。2010年6月にはThales Alenia Space製の衛星がAriane 5で打ち上がる予定。ナイルサットは業績好調で、年間の売り上げは1億ドルを超えており、その6割が利益だという。しかも、税金の優遇措置を受けているという。2015年には衛星の寿命がくるので、代替衛星が必要になり、2010年中に入札要綱が決まる。日本企業にもチャンスがないわけではないが、これまで欧州勢がずっと受注し、成功もしているところに食い込むのは並大抵のことではない。

Nilesat外観(写真提供:伊地智幸一氏)

Nilesatの内部

帰国後、エジプトサット2の情報提供に関する要項がまわってきた。締め切りは3月15日。ここで日本はどんなカードを切れるのか。エジプトはアラブ諸国への影響力が大きい国としても知られている。ここでどんな関係を構築できるのかは、今後の試金石ともなろう。