一般的にデザイン業界のクリエイターが使用するツールといえば、「Photoshop」などに代表されるAdobe製品が多いだろう。また、OS環境に関してもMacである可能性が高いのではないだろうか。今回取り上げるMicrosoft製品は、Windows用という印象が強く、それだけの理由で敬遠する人もいるかもしれない。確かに、多くのクリエイターが利用しているということはツール選択時のひとつの理由になるが、Adobe製品以外のツールを使ってみたことがない筆者は、Adobe製品を使っていることが本当にベストの選択なのかどうか確証が持てないでいた。そこで、今回「Microsoft Expression」シリーズを試用することができたので、「どれだけ効率が良いワークフローを実現できるのか」、「成果物のクオリティはどうなのか」、「ストレスなく制作に没頭できるのか」といった点に留意しながらMicrosoftのWeb・アプリケーション制作ツール「Microsoft Expression Studio 3」のファーストインプレッションを紹介していきたい。

Microsoft Expression Studio 3

MicrosoftのWeb・アプリケーション制作ツールのスイート製品「Microsoft Expression Studio 3」は「Expression」シリーズの最新バージョン。このスイート製品は「Expression Blend 3」、「Expression Web 3」、「Expression Design 3」、「Expression Encoder 3」(本記事内では、それぞれバージョン番号を除いた名称で呼ぶ)という4つのツールのセットで、Adobe CS3やCS4というバージョン表記同様、「Expression Blend 3」、「Expression Web 3」といったバージョンナンバーが統一されている。

まず、Microsoft Expression Studio 3の特徴として、ほとんどのアプリケーションでAdobe製アプリケーションのファイル形式をサポートしていることが挙げられる。そして、Microsoft WordへのエクスポートやPowerPointからのインポートがサポートされている。それらのことから、同社がユーザーによってワークフローが異なることを認識していることが伺い知れ、チームで作業している場合に、全員が同じメーカーの製品群を使用していなくても作業が行える。また、デザイナーはAdobe製品を使用したグラフィック制作を継続しながらも、Microsoft 技術を活用したインタラクティブコンテンツの制作を行うことも可能だ。アップグレード対象製品として、同社の旧バージョンに加え、AdobeのCreative Suiteシリーズも入っており、いわゆるクロスアップグレードが可能となっている。

Adobe製品との違い

ここで、Microsoftの各Web制作ツールの使用用途を明確にするため、筆者なりにAdobe製品に当てはめてみた。かなりおおざっぱな区分になるが、下表を参照してほしい。「Expression Studio」は、Expressionシリーズのスイート製品だが、これはAdobeでいえばCreative Suite のWeb Standardに相当するものと考えてよいだろう。「Adobe Contribute」や「Adobe Bridge」、「Adobe Device Central」のようなツールは、Expressionシリーズにはない。しかし同様に、Expressionシリーズにある「Expression Encoder」のスクリーンビデオキャプチャのような機能を持つAdobe製品は、Creative Suiteシリーズに入っていない。

また、Adobe製品を用いてWebなどでインタラクティブなコンテンツを制作する際、もっとも利用されるのは Flash/Flex だが、MicrosoftではFlash/Flexに相当する技術としてSilverlightを提供している。Silverlightは、見た目はFlashと似た印象を受けるが、互換性はなく、言うならばFlashとFlexを融合させたような性質を持っている。

機能別に見た両社の製品一覧

機能 Adobe Web Standard Microsoft Expression Studio
Webグラフィック作成 Fireworks Expression Design
html+cssコーディング Dreamweaver Expression Web
インタラクティブコンテンツ作成(※1) Flash Professional Expression Blend
Web用ビデオエンコード Media Encoder(※2) Expression Encoder

(※1)Flash ProfessionalはFlashコンテンツを作成し、Expression BlendはSilverlightおよびWPF(Windows Presentation Foundation)コンテンツを作成する。
(※2)Media Encoderは、エンコード機能のみだが、Flash Professionalに含まれているプログラムソフト。

表だけを見ると、両者は似たようなツール群だが、実はそのポリシーが大きく違うため、向いている人、向いていない人が大きく分かれるだろうという印象を受けた。後編では、Microsoftの各ツールについて、Adobe製品と比較していく予定だ。