人材育成は思ったとおりにはいかないのが当たり前

デンソー技研センター 技術研修本部技術研修2部 三浦久博氏

2番目に登壇したのはデンソー技研センターの三浦氏。同社はデンソーの人材教育関連を担当する企業で、社内の機関として「デンソー工業技術短期大学」なども保有している。

同社では人材育成に対し、「ソフトウェアは書かれたプログラムどおりに動くが、人材育成はアナログ。プログラムどおりには行かないのが常で、企業側が思ったとおりにはいかない」(三浦氏)ということを理解したうえで、「事業成長に貢献できる意欲・能力を持った創造性豊かな人材の育成」を方針に、「技」と「心」、「しくみ」の三位一体活動を行っている。

この3つについて三浦氏は、「技術者としては技術のみならず人間力も必要。そしてそれをうまく活用する組織の仕組みが重要」と説明。OJTを中心に考えることを重視した教育体制を構築することにより、単にスキルアップだけではなく、それをうまく活用し、会社や社会のために貢献していくことを目指すようなしかけになっていると述べる。

デンソーにおける人づくりの基本的な考え方は「技」と「心」、そして「しくみ」の3つが一体となって行われる

特に技術者の育成では、「新しい価値の創造が世の中の役に立つが、技術だけではうまくいかない。デンソースピリットである"先進"、"信頼"、"総智・総力"の下、プロ意識を持った人間力と仕事をうまく回すマネジメント力の強化が必要」としており、その基本として社内における自己啓発と職場での教育があるとする。

デンソーが要求する技術者の能力

こうした取り組みで注意しているのが「自分でモチベーションを持って取り組む教育を進めている」という点。ただし、社会的には残業の削減などの流れがあり、勉強する時間の確保などが難しいと指摘、そうした中でもモチベーションを維持できるような支援が必要になるとした。

そうした現況を鑑み、同社では、12分野117科目を対象とした「スキルアップ研修」とより高度なスキルの獲得を目指した「技術ハイタレント研修」を主な研修として用意。社内のWebシステムである「教育ナビゲートシステム」を活用することで、前年、本年、来年とそれぞれの目標などを設定、上司などと相談を行うことで、自分のキャリアアップの方向性を見出していく取り組みを行っている。

デンソーの技術者育成のための体系図

各種の技術研修では、カリキュラムの見直しも随時行われている。例えば情報工学分野の場合は、機械があって、そこに小さなプログラムを入れて、やがて大きなプログラムに取り掛かるといった旧来の流れでは対応できないことも多くなっており、結果としていくつか内容を細分化して研修を実施するように検討を進めているという。

また、科目別に研修を行っても受講者側のレベルが違うと習得率に差が出てしまうが、そうした差を縮めるために、当該科目を受講するまえに、前提の知識を習得しているかどうかといった系統だった研修が受けられているかどうかのチェックも必要だと指摘する。

一方の技術ハイタレント研修は、「エレクトロニクス」や「情報通信工学」などの専門技術1種類と技術マネジメント力・グローバル対応力などをT字型に組み合わせることでリーダーを養成する研修。

技術ハイタレント研修の概要

こうした技術研修を総合し三浦氏は「座学による知識、実習による見識、そして自分達が持ち寄った課題に大使、自分達で解決できる力を討論により持たせる"気づき"の力(胆識)を養うことで人間力を向上させることができる」とし、結果として事業戦略に貢献できる技術者が育成されると述べ、「重要なのはそうしたことに対するトップの理解。教育は目に見えないし、すぐに効果も出てこない、長い目で見る必要がある」とした。