夢はロケット開発も?
近年、大学の超小型衛星で問題となっているのが、打ち上げロケットの価格だ。当初はロシア製が良く使われていたが、ロシア経済の発展とともに高騰。「昔は1kgで100万円と言われていましたが、今は3~4倍になりました。最近はインドの方が安いけれど、こちらは打ち上げ時期が読みにくい」という。JAXAの相乗りだと無料だが、これは1年に1回あるかどうかの"狭き門"。学生が卒業するまでに打ち上げるためには、ちょっと使いにくい。
ちなみに、前述のNano-JASMINEは、すでにブラジルからの打ち上げが決まっている(2011年8月予定)。ブラジルとウクライナの合弁会社であるAlcantara Cyclone Spaceが新型ロケット「Cyclone-4」を開発しており、その初号機に相乗りするのだ。運のいいことに、今回は初号機ということで、「お試し価格」だった。しかし、これも次回からは、通常の料金に戻ってしまう。
単位重量あたりの打ち上げコストが安いのは液体ロケットであるが、これは仕組みが複雑でどうしても大きなロケットになる。相乗りという方法にならざるを得ない。一方、固体ロケットは比較的小型だが、液体に比べるとコストは割高。液体の大型ロケットの打ち上げ単価を小型ロケットで実現する――というのが、以前本誌でも紹介したCAMUIロケットのコンセプトであるが、残念ながらまだ宇宙に届くには至っていない。
小さくて安いロケットが存在しない――これが超小型衛星の目下の課題なのだ。
「日本国内で安いロケットを作ってくれる企業が現れれば、これに勝るものはありませんが」と中須賀教授。「私の提案は―」と続ける。
「ウクライナみたいなところと組めばいいと思っています。ここにはすごいロケット技術がある。低軌道に100kgか200kgを打ち上げるロケットを共同開発すればいい。20~30億円くらい投資すればできると思う。一国だけでやるのではなくて、どこか技術を持っているところと組むという考え方も大事」
「自分でロケットを作ってみたいという思いもありますね。でも、まずはやってくれるところを探したい。世界中の小型衛星コミュニティで、お金を出し合って開発するのもいいかもしれません。実際に作るのなんて、どの国でも構わないんですよ。その動きを日本から発信できればいいですね」
中須賀教授の軸足は、すでに教育から、産業を視野に入れたところに移りつつある。海外では、英Surrey Satellite Technologyが順調に実績を積み上げているが、日本でも、東大発のベンチャーとしてアクセルスペースが2008年に設立され、ウェザーニューズから観測衛星を受注した。衛星のコストが安くなれば、多くの企業が自前の衛星を持とうと思うようになる。そんな時代が見えてきているのだ。
中須賀教授が目指す次の10年とは――。
「日本を世界一の超小型衛星大国にしたい。"弁当"を見てください。栄養を考えて、濡れるものと濡れないものを別けて、しかも綺麗にまとまっている。限られたサイズの中に詰め込む思考は、日本人は得意なんです。超小型衛星も同じこと。サイズがある程度決まっていて、その中にどれだけのものを詰め込むか。枠組みの中で凝っていくのは、日本人は非常に得意だし好きなんです」
「我々の衛星にとっては、最初の10年が終わったところ。ここで、内閣府の『最先端研究開発支援プログラム』に採択されたのは、非常にいいタイミングでした。これは、超小型衛星を、宇宙開発の一分野として確立させるために提案したものです。超小型衛星を作るコミュニティ、それを利用するコミュニティを育成する。小さなお金でも生活の役に立つ、そんな宇宙開発を実現したい」
新たな10年が本日、幕を開けた。2010年代は、宇宙開発がもっと身近なものになりそうだ。