同氏によると、リーマン・ブラザーズの破綻とその後の経済の混乱が象徴しているように、内部統制がまったくできていなかったのは、むしろ、銀行、証券会社、格付け会社、住宅金融会社、生保会社の5つだった。そうであるなら、アメリカがその5つの会社に内部統制を適用し、それが良ければ見習うという選択肢をとることもできた可能性がある。振り返ってみると日本は、「エンロンとワールドコムの破綻という、学ぶべきでないものを学んでしまった」というわけだ。

このように、金児氏は「制度が決まったのだから適用する」という姿勢をまずは見直してみることを説く。そもそも、同氏の持論によれば、「IFRSは、詰め切れていない」ものである。

例えば、先行して導入が進みつつあった工事進行基準については、収益認識のおかしさから、工事完成基準に戻ろうとする動きが出ている。M&Aののれん代を非償却資産として減損処理する方法についても、理論的な根拠は乏しい。「減損処理を徹底的に正しく処理したら、世界中でものすごい損がでて、さらなる不況を招くかもしれない」とも言う。

しかし一方で、企業は「規則がきまったら、それをやらなければならないという宿命におかれている」のも事実だ。では、そうした中で今、IFRSについて、どう考え、何を学ぶべきなのか。金児氏は講演で、信越化学工業のエピソードを交えながら、再三にわたって「もとになる世界経済、さらにそのもとになる会社経営そのものの視点から考えること」の大切さを訴えた。

例えば、IFRSには、「世界中の経済がつながることで、良くなるという前提が必要だということ。その前提がないなら、会計をつなぐ意味はない」という視点を持つこと。

また、冒頭で触れたように、「経営の本質とは、コンプライアンスを守り、利益を上げ、税金を納める」ということにある。これは、利益を1円でも上げていれば、そこにコストも含まれるということであり、そのコストをまかなえないようであれば、制度を適用する意味はないということ。

「IFRSには、マネジメントという言葉がやたらとでてくる。マネジメントには、経営者という意味と、経営という意味の2つがある。ここでいう経営は、我々がつねづねやってきたことにほかならない。だから、例えば、IFRSを採用しないとグローバルな資金調達ができなくなると言われても、必ずしもそれを信じることはない。そもそも、お金を借りるときは、会社さえしっかりしていれば、お金を貸してくれるものだからだ。IFRSに取り組むにあたっては、こうしたことを1つ1つ煮詰めて考え、IFRS何する者ぞと自信を持ちながら、批判的に臨んでいってほしい」(同氏)