信越化学工業顧問 日本CFO協会最高顧問 金児昭氏

「経営の本質は、コンプライアンスを守り、利益を上げ、税金を納めること。IFRSへの取り組みにあたっても、その本質を見失うことがあってはならない」

SAPジャパンが9月15日に開催した「SAP IFRS Conference」の基調講演で、信越化学工業顧問 日本CFO協会最高顧問を務める金児昭氏はそう語り、ともすれば日本企業がIFRS(国際財務会計基準)への対応に盲進してしまいがちな点に注意を促した。

経理・財務のプロとして信越化学工業のグローバル経営を支え、1970年代からM&Aやファイナンスといった"アングロサクソン流"の経営術も実践してきた同氏にとって、近年のIFRSをめぐる議論は、頭で考えず、カラダだけでなんとなく反応してしまっているように見えるという。

例えば、IFRSについて、こんなふうに言われていると指摘する 「 会計の物差しは1つでなければならない、同業他社を比較するときは1つの物差しで比較しないといけない、世界中で採用されているものだから日本は遅れをとってはいけない」

「そう強く言われると、ついなるほどと思ってしまう。だが、そんな規則はじつはない。例えば、世界中の国々について、民族も法律も全部一緒にすべきなどという天の定めはない。基本的な会計の仕組みもそうだ。だから、我々は、それぞれの国を固めて、適用していくという心構えでいることが大切になる」

また金児氏は、エンロン、ワールドコムの破綻を受けて成立した米国SOX法を参考に、国内でも同じような制度を適用したことについて、「アメリカ流の内部統制をそっくりモノマネしたもので、適用の時期が遅かったら、とんでもないことになっていた」とも指摘。例えば、今この時点で適用していたら、コスト負担に耐えきれずに、内部統制システムを整備できた企業は、およそ5分の1になっていたはずだとする。